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後編
その直後「ドシーヤァァァアァァ――」と言う轟音が響きました。
私は目を塞ぐのを止めて、窓の外の路地を見下ろしました。沖田さんが私のアパートと、沖田さんのマンションの間で、血の絨毯の上に横たわっていました。
私は叫びました。
「いやぁァァァ――――――」
すると、沖田さんの部屋と廊下を繋ぐ扉が開いたのです。
開いたドアから、沖田さんによく似た初老の男が現れました。声は荒々しく、顔を引きつらせていました。
「何の音かと来てみれば。お前は誰だ。どうしてこの部屋にいるんだ! 泥棒か?!」
私は男に向かって釈明します。
「違います。違うんです。そのぉ。沖田さんが……。義人さんが……」
男の顔色が変わります。
「息子が? 義人がどうしたと……」
「落ちてしまって」
「以前、確かに落ちたが……、君はいったい誰なんだ?」
男を見つめる私の耳元で、沖田さんの声がしました。
「そいつに、僕は付き落とされたんだ」
私の隣に、落ちたはずの沖田さんがいました。私は沖田さんに尋ねます。
「このひとが、沖田さんを殺したの? 義人さんを殺したの?」
沖田さんは父親を睨みつたまま頷きました。
私の言葉に男も反応しました。
「おい、お前は何を言うんだ?」
私は男に聞きました。
「あなたがこの窓から義人さんを突き落としたの?」
「何を証拠にそんな事を言うんだ?」
私の代わりに、沖田さんが男の問いに答えました。
「あんたの右腕を、僕は落とされる時噛みついた。僕の歯型が残っているだろう?」
男には沖田さんの体も見えず、声も聞こえないようでした。なので私は口伝えしました。
「あなたの肩に、義人さんの歯型があるはずよ」
男が怒鳴ります。
「そんなの証拠になるか? どうして俺が息子を殺す?」
「保険金がかけてあったんだ」
「保険金がかけてあったんでしょう?」
男の顔が卑屈に歪みます。
「アンタぁ。誰だよ? 何しに息子の部屋に侵入した?」
男が窓を背にした私へ近寄ってきて、更に男が私の体に手を伸ばしてきました。
男の鬼気迫る表情に私は危険を感じました。
――殺されるかもしれない。
男は余裕の笑みを浮かべて言いました。
「まぁ、いいよ。あんたは単なる泥棒で、俺ともみ合って窓から逃げようとした。しかしそのまま転落した。シナリオは、そんなもんでいいだろう。窓からお前を落としてやる」
私は恐怖で喉がつまり、声がうまく出なくなってきました。私はガタガタと震え怯えながら、男を見ていました。
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