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すると隣にいた沖田さんが言いました。
「逃げて。さっきと同じように、自分の部屋の窓に向かって飛ぶんだ。大丈夫。明音さんなら出来るよ」
沖田さんの声に私の固まったからがほぐれました。私は身体を翻し、窓枠に足を掛けて、自分の部屋に向かって飛びました。しかし前回のダイブで打った膝が痛み、先ほどより距離が飛べません。それでもなんとか、私のアパートの窓枠にお腹がぶら下がりました。そして窓枠の下にある縄梯子用のフックをさぐり、それを握りしめると、私は片足を窓枠に引き上げました。
――逃げ切れる。部屋に体の全部を入れて、窓を閉めて鍵をかけないと!
そう思い、もう片方の足も窓枠の中に引き上げようとしました。
――でも、動かせないのです! 何かで固定されているようでした。
引くことの出来ない足を確認する為に、私は振り返りました。すると男がニヤニヤしながら「残念だったな。後少しだったのに」と言って見つめてきました。
――もう片方の足首が、男に掴まれていました。
男は私の足首を、両手で持ち直し、私の足首を思いっきり男の方に引っ張ろうとします。このまま引っ張られたら、私は頭から通路に落ちていくでしょう。そこで私は、お腹を窓枠に押し当てながらバランスを取り、掴まれていない方の足で、男の顔を蹴飛ばしました。顔を蹴られた男は怒って、身を乗り出して、男は掴まえていない足も拘束しようとしてきました。私の足はあっけなく、両足ともに、男に掴まれてしまいました。
しかし男は、掴んでいない足に気を取られて、掴んだ足の靴下が抜けていくことへの対処が、出来なかったのです。男は私から脱げていく靴下だけを掴み、靴下から抜け落ちる私の足首を失って、バランスを崩してしまいました。男はバランスを崩したまま、体が窓枠の外に飛び出て行きます。
私は、窓の外へ体が飛び出していく男を背に、なんとか体のバランスを保って、自分の部屋に這い落ちるように滑り込んだのです。私が自分の部屋へ滑り込んだその時、音がしました。水分の多い重いものが落ちて、硬い地面に当たって潰れる音です。
「ドシーン。グシャ――」
鈍い音が辺りに響き渡りました。私は窓から路地を見下しました。路地には男が横たわっていました。
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