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オルゴールから流れる音色は徐々にゆっくりになり、止まった。
老女は静かに涙を流していた。
「家の記憶に残っていたのは私だけじゃ、なかったのね」
店主は穏やかな笑みをたたえたまま、オルゴールを見た。
「この家は、あなたたち家族のことが好きだったようですね。息子さんたちが家を出て、ご主人がお亡くなりになり、長い時間が経過してもなお。当時の記憶は薄れることなく残っていたようです」
老女は柱を愛おしそうに撫でた。
「ありがとう」
涙に濡れた老女の瞳は、あたたかかった。
オルゴールを優しく両手で包み込んだ老女は、深々と頭を下げた。
「あなたにお願いしてよかったわ。このオルゴールは施設に持っていくことにします。息子たちに渡すのは私が死んでからでも遅くないわよね」
老女の笑顔が、店主にとっては何よりの報酬だった。
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