記憶はオルゴールと共に

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 のどかな町の端にある静かな通りに、その店はあった。  中に入るとあたたかみのある木の家具たちが所狭しと並んでいる。ひとつだけある大きな窓からは陽の光が差し込んでいた。  その奥に、店主と思われる長身の男性が座っていた。  カランコロンとドアベルが鳴り来客を知らせる。店に足を踏み入れたのは1人の老女だった。 「いらっしゃいませ」  中性的な男性の声が老女を迎え入れた。 「どうも、こんにちは。依頼してもいいかしら」 「もちろんです」  椅子に腰掛け、出されたお茶を一口飲んだ老女は、ゆったりと微笑んだ。 「良い店ね」 「ありがとうございます」  老女がお茶をすする音だけが店内に響く。店主は老女に話をうながすこともせず、おいしそうにお茶を飲む老女をニコニコと見つめていた。
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