四章

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アシュリーはオースティンを見据えた。 涙と鼻水だらけの惨めな姿を見ても心が痛むことはない。 「……っ、すま、なかっだ。許し、てッゴホ……!ゴホッ」 王妃はオースティンの姿を見て我慢ができなかったのか、彼の元に行き、背を擦りながら大粒の涙を溢している。 「アシュリー、お願い……!何でもするわ!あなた欲しいものは何でもあげるっ」 「頼むっ……!」 オースティンの口から掠れた声で『助けてくれ』と聞こえたような気がした。 今更縋りついたところで何もかもが手遅れなのだ。 アシュリーがこうして話を聞いて欲しいと縋った時、彼らはなんと言ったのだろうか。 暴言を吐かないだけマシだと思ってほしい。 まさにあの時の絶望を再現しているようだった。 (滑稽ね……本当にくだらない) そんな悲痛な叫びを聞いてもアシュリーの心は動かなかった。 こんなに苦しんでいる姿を見ても少しの罪悪感も感じない。 怒りと憎しみは燃え上がるばかりで消えないのだ。 アシュリーは大きく息を吸った。 そして貼り付けたように笑を浮かべた後に、こう答えた。
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