四章

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唾を吐き散らしながらアシュリーを怒鳴りつける姿を見ていると、おかしくてたまらなかった。 以前は涙を流しながら踵を返したが今回はそうはいかない。 (……絶望を味わうがいいわ) 荒く息を吐き出しながら暴言を吐き散らすサルバリー国王と王妃を見て、ギルバートの表情に怒りが滲む。 そして二人を囲むように刺々しい真っ黒な闇が囲った。 あまりの禍々しさに騎士たちすら動きを止めた。 「愛する妻への暴言は見過ごせません」 「……ッ!?」 「サルバリー国王、これはペイスリーブ王国への宣戦布告でしょうか?」 「こ、これは……」 「今すぐこの場から消えろ」 ギルバートの言葉にサルバリー国王は引き下がろうとはしない。 オースティンは高熱に魘されているのか、譫言のようにアシュリーの名前を呼び続けている。 騎士たちはギルバートが発したその言葉にサルバリー国王、王妃、オースティンや医師のカルゴを取り囲み、扉へと促す。 ビリビリと背後から伝わる圧迫感に困ったように微笑んだアシュリーはギルバートの頰に手のひらを滑らせた。 背伸びをした体に合わせて、真っ赤なドレスがサラリと揺れた。 「あらあら……ギルバート殿下」 今にもサルバリー国王たちを殺してしまいそうなギルバートの手を握り、そっと力を込めた。 淡い光がギルバートを包み込む。 今、オースティンが喉から手が出るほどに欲している力をあえて目の前で使っているのだ。
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