二章

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あの時の様に自分の両手を見ながら問いかけた。 いつもの笑顔は消えて、スッと冷めた瞳を向けた。 二人は驚きのあまり声が出ないように見えた。 あんなに大きかった両親の姿が今はこんなに小さく見える。 「恩知らずは、どちらかしら?」 そう言って、アシュリーは笑いながらコテンと首を傾げた。 「なっ……!」 「……ッ!」 「ギルバート殿下が結婚を申し込んでくださって嬉しいわ。だって、腐りきったあなたたちから離れられるんですもの」 「───このッ!」 響き渡る怒号と再び父に掴まれる胸元。 今にも殴りかかりそうな父を見てもアシュリーは怯えることもなく淡々と答えた。 「お父様はまたわたくしを叩くのですか?」 「……くっ」 「お父様とお母様は、わたくしが言うことを聞かなければ、わたくしをこうして傷付けるのね……ひどいわ」 その言葉に二人はピタリと動きを止めた。 どれだけ質問しても、思っていたよりもずっと下らない答えが返ってくる。 (つまらない…………でも言いたいことを言うと、こんなにスッキリとした気持ちになるなんて知らなかったわ) 今までは溜め込んで溜め込んで溜め込んで……我慢して下を向いて涙を呑んだ。 そして傷ついたことを忘れるまで待つだけだった。 そんな日々はもうたくさんだ。 その場に似つかわしくない明るい表情を浮かべてから唇を開いた。 「わたくしからは以上ですわ。今までお世話になりました……さようなら」
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