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4.嫉妬
「この間、高柳くんに、会って」
「高柳? ってあの、あー、高校のとき同じクラスだったあの高柳? え、なんで?」
「俺がバイトしてる本屋にさ、バイトで入ってきて。すごい偶然でびっくりしたんだけど」
高柳誠とは高校三年生のとき、柊、聖共に同じクラスだった。朗らかでクラスのムードメーカー的存在の少年だが、クラスの中心となるタイプの人間にありがちな、押しつけがましさを持たない稀有な存在でもあった。こちらの気持ちもお構いなしにグループへぐいぐい引っ張りこむようなタイプを、ゴキブリばりに忌み嫌っていた聖にしては珍しく、高柳には拒否反応を見せなかったことからも、高柳がただの陽キャではなかったことは明らかだろう。
「高柳が、なに?」
「あ、いや、なんか近況とかいろいろ聞いてて。で……その流れで」
聖にしては珍しく、言いよどむ。ん? と首を傾げると、彼は言いにくそうに口を動かした。
「柊のこと……話し、ちゃって。一緒に住んでることとか、あの」
「え」
それはまさか、付き合っているとか、そういうことを話した、ということだろうか。驚いて固まる柊の前で聖はがばりと頭を下げた。
「ごめん。柊、嫌だった、よね。同級生に知られるの」
「あ、いや、嫌、じゃない、けど」
けど……と言ったきり、柊は口を閉じる。
正直……複雑な気持ちだった。
「聖さ、高柳とそんなに仲良かったっけ」
「え?」
聖がきょとん、とする。その彼の顔から目を逸らし、柊はぶっきらぼうに訊ねた。
「そんなさ、久しぶりの再会で、なんでもかんでも言い合えるくらい、仲良かった?」
聖が沈黙する。いつも通り表情が薄い顔だ。でも柊にはわかる。聖が困惑しているらしいことが。
彼は困っている。柊が機嫌を損ねた理由に思いを馳せて、悩んでいる。
本当にこいつは、なにもわかっていない。
「勘違いするなよ。誰に言おうが別にいいんだ。それが嫌なんじゃないんだよ。そういうんじゃなくて」
かっこ悪い。こんなことを口にするなんて。でも、言わずにいられなかった。
「聖がそんなふうに自分のこと、なんでも話せるのは俺だけだと思ってたのに」
聖の目がふうっと大きくなる。その顔を見ていたらもやもやしてどうにも止められず、柊はふいっと身を翻した。
「コンビニ、行ってくるから。先、寝てて」
そのまま、聖の返事を待たず、部屋を出た。アパートの外階段を走り下りたところで、そういえば鼻歌のことを訊きそびれた、と思ったけれど、戻って訊く気は失せていた。
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