プロローグ

1/1
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

プロローグ

 このブランコをこぎながら見る月は、なかなか悪くないと思えた。  でも、川をプカプカ浮きながら見る月が一番美しい。大好きなキュウリがあれば、なお良い。  ゆっくりとブランコを揺らしていると、昨日まで遊んでいた川を思い出す。   「いつになったら、帰れるんやろ……」  夜風が髪を梳かし、いおりはそっと頭に手をやった。自慢の皿はもうない。 「寝られへんの?」  クスクス笑いと一緒にさっき食べたクッキーみたいな甘く優しい声が聞こえて、いおりはブランコから飛び降りた。  隣の家との境には白いフェンスがあり、向こう側から女の子がいおりを見ている。 「ちゃうわ!た、探検や探検!」 「一緒やわ。私も探検中……そっち行ってもいい?」  低いフェンスだが、強引に跨いでいおりの側にこようとする女の子は、今朝引っ越しの挨拶をした隣人の子供だ。 「危ない!」  バランスを崩しかけた女の子を支えようと駆け寄った。そんないおりの頭をムギュッと掴み着地すると、二人は至近距離で見つめ合う。 「綺麗……その緑色の目。まるで宝石みたいやね」  慌てて目を伏せたがもう遅い。  いおりの正体が、引っ越し当日早々にバレようとしていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!