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「そやなぁ、怖い時もあるし、オモロイ時もあるし」
「ふうん……」
滝に近い岩場の家は、狭いながらも住み心地が良い。特に月夜には、屋根でもある大岩に座って仲良くキュウリや魚を食べた。
いい気分になった父は、いつの間にか踊りだし、母が独特の節回しで美声を披露する。
そんな両親の楽しそうな姿を、いおりは大きな緑色の目をキラキラさせて見ているのが好きだった。
水神も、喜びの水しぶきたてる。
自然の恵みとも言える水のパワーを全身に浴びて、いおりはこの村でスクスクと育った。
なのに、数日後には人間界へ行く。
武藤いおりとして。
──いおりよ、人間に化けても満月の夜には気を付けなさい。満月の前では、緑の瞳は隠せないから。
「はい、龍神さま。満月の夜は、人間に目を見られないようにするね……」
もうすぐ新月になる。
「オレはもう、まん丸お月さまを見られへんのやな……人間って、緑の目が嫌いなん?黒い目のほうが怖いやんか」
心地よい水音は子守唄のようで、いおりのまぶたはゆっくりと下がっていった。
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