19人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「出てきた!これはクッキーや。食べてみ?」
こだまから差し出されたクッキーを、恐る恐るかじってみた。
甘くて、口の中でホロホロとけてゆく。
「これがムッジーの言ってたアレかな……」
夕食には、こだま特製の『キュウリ爆盛サラダ』をたらふく食べ、いおりは2階の子供部屋に上がった。
ベッドに潜っても、シーツや布団に慣れていないいおりは、何度も寝返りを打つ。
「何やねん、コレ……身体がムズムズして寝られへん……」
すっかり目が冴えてしまったいおりは、ベッドから抜け出して階下へ下りると、両親も疲れて眠ってしまったのか誰もいなかった。
そっと玄関を開けて庭にでる。
いおりは青いブランコに座り、たしりに教えてもらった通りに漕いでみた。
少しだけ、水の中と似ているように思える。
今度は強く漕いでみる。
──月まで届け!
「寝られへんの?」
びっくりしたいおりがブランコから飛び降り、声がした方に目を凝らすと、隣のフェンスから陽奈が顔を覗かせていた。
しかも、こっちに来ようとしている。
「危ない!」
バランスを崩しそうになった陽奈に手を伸ばすと、頭を掴まれて、上手くいおりの目の前に着地した。
「綺麗……その緑の目。まるで宝石みたいやね」
いおりと陽奈の横顔を照らすのは、紛れもなく満月だ。
龍神さまにも、長老や両親にも、口を酸っぱくして言われていた約束は、引っ越し初日に大ピンチをむかえている。
最初のコメントを投稿しよう!