引っ越しとご挨拶

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「出てきた!これはクッキーや。食べてみ?」  こだまから差し出されたクッキーを、恐る恐るかじってみた。  甘くて、口の中でホロホロとけてゆく。 「これがムッジーの言ってたアレかな……」  夕食には、こだま特製の『キュウリ爆盛サラダ』をたらふく食べ、いおりは2階の子供部屋に上がった。  ベッドに潜っても、シーツや布団に慣れていないいおりは、何度も寝返りを打つ。 「何やねん、コレ……身体がムズムズして寝られへん……」  すっかり目が冴えてしまったいおりは、ベッドから抜け出して階下へ下りると、両親も疲れて眠ってしまったのか誰もいなかった。  そっと玄関を開けて庭にでる。  いおりは青いブランコに座り、たしりに教えてもらった通りに漕いでみた。  少しだけ、水の中と似ているように思える。  今度は強く漕いでみる。   ──月まで届け! 「寝られへんの?」  びっくりしたいおりがブランコから飛び降り、声がした方に目を凝らすと、隣のフェンスから陽奈が顔を覗かせていた。  しかも、こっちに来ようとしている。 「危ない!」  バランスを崩しそうになった陽奈に手を伸ばすと、頭を掴まれて、上手くいおりの目の前に着地した。 「綺麗……その緑の目。まるで宝石みたいやね」  いおりと陽奈の横顔を照らすのは、紛れもなく満月だ。  龍神さまにも、長老や両親にも、口を酸っぱくして言われていた約束は、引っ越し初日に大ピンチをむかえている。  
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