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武藤家の誕生
いおりはまだまだ子供の河童。好奇心旺盛で、特に食べ物には弱い。
「ワシがピックアップした人間飯ベスト50、いおりが全部食べるのに何年かかるかな〜、5年?いや、10年やな〜なんせアレやもんな」
「……50個もあるん?」
ここぞとばかりにムジロウが畳みかける。強引な力技だった。
「今やったら人間飯制覇をスタンプラリーにして、50個スタンプがたまったら里帰り1回と交換や。いおりはええ子やからな、キュウリも3本オマケしたるで」
「ホンマに!?やった、やった!キュウリも貰えるなんて最高や」
父と母がかなり複雑な表情をしていたが、ムジロウといおりはガッチリと握手した。
──約束、約束、ヤッパッパー!
この約束がいおりにとって、人間界での長い長い物語になるとは、誰も想像すらできなかった。
「ほな、命名式を始める。オマエらの苗字は、武庫川からひと文字取って武藤や。素晴らしいな」
父は、武藤たしり
母は、武藤こだま
いおりは、武藤へぞう
「待ってや、ムッジー!なんでオレだけへぞうなん?そんな臭そうな名前で大丈夫なん?」
基本河童は生臭い。
「屁の河童からひと文字取って、へぞう。河童の矜持を忘れたらアカンがな」
普段は長老に逆らった事もない母こだまが、血相を変えて食ってかかった。
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