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プロローグ
このブランコをこぎながら見る月は、なかなか悪くないと思えた。
でも、川をプカプカ浮きながら見る月が一番美しい。大好きなキュウリがあれば、なお良い。
ゆっくりとブランコを揺らしていると、昨日まで遊んでいた川を思い出す。
「いつになったら、帰れるんやろ……」
夜風が髪を梳かし、いおりはそっと頭に手をやった。自慢の皿はもうない。
「寝られへんの?」
クスクス笑いと一緒にさっき食べたクッキーみたいな甘く優しい声が聞こえて、いおりはブランコから飛び降りた。
隣の家との境には白いフェンスがあり、向こう側から女の子がいおりを見ている。
「ちゃうわ!た、探検や探検!」
「一緒やわ。私も探検中……そっち行ってもいい?」
低いフェンスだが、強引に跨いでいおりの側にこようとする女の子は、今朝引っ越しの挨拶をした隣人の子供だ。
「危ない!」
バランスを崩しかけた女の子を支えようと駆け寄った。そんないおりの頭をムギュッと掴み着地すると、二人は至近距離で見つめ合う。
「綺麗……その緑色の目。まるで宝石みたいやね」
慌てて目を伏せたがもう遅い。
いおりの正体が、引っ越し当日早々にバレようとしていた。
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