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21.人の彼女
――文化祭の片付け&清掃は翌々日の朝から始まった。
クラスメイトは皆ジャージに着替えて、教室内や廊下の手作りの展示物を剥がしていく。そこから出た大量のゴミは教室の隅へと寄せられた。
私は先生に頼まれて二つのゴミ袋を両手に持って廊下を歩いていると、後ろから誰かが一つのゴミ袋を取り上げて「一つ持つよ」と言った。横目を向けると、そこには木原くんがいる。
「一人で持っていけますので」
「遠慮しなくていいよ。女の子にゴミ袋を二つ押し付けるなんて担任も酷いよな〜」
「そんなことないです。多分、私が傍にいたから任されたんです」
「無理しちゃって。困った時は男に押し付ければいいんだよ。……俺、とかね」
「……」
木原くんの顔を見ると思い出す。屋上で赤城さんとキスしていたあの日のことを。
私からすると、木原くんは赤城さんの彼氏。クラスメイトというより、そっちの印象が大きい。
なのに、一昨日、今日と、どういったつもりで私に近づいて来たのだろう。
ごみ置き場に到着して、先に積み重なっているゴミの横に二つのゴミ袋を置いて教室に戻る途中に木原くんは言った。
「今度一緒に遊びに行かない?」
それを聞いて思わず耳を疑った。
彼女がいるにもかかわらず、ただのクラスメイトの私を誘ってくるなんて。
「でも、木原くんは気になる人がいるんじゃ……」
その気になる人の名前は言えない。何故なら、二人は秘密の交際をしているから。
「もしかして、深い意味で捉えてる? 全然そんなんじゃないよ。友達として誘ってるだけ」
「友達……ですか」
「そうそう。男女の関係とかそーゆーんじゃなくて、お茶したり、カラオケ行ったり、ゲーセン行ったりとか」
「でも、二人で遊んでる所を他の人に見られたら付き合ってるって誤解されるんじゃ……」
「誤解されたら、解けばいいじゃん」
「それはさすがにまずいです……。私、もう行きますね」
ただですら一昨日の赤城さんの目線が心に突き刺さったままなのに、木原くんと二人で遊ぶなんてあり得ない。それに、加茂井くんに誤解されちゃうかもしれない。
そんなの、無理。
「矢島っ……」
「そういった友達ならなれません。ごめんなさい」
「じゃあ、お茶。それならいい?」
「ダメです。私、もう教室に戻らなきゃ」
「矢島、待って!」
木原くんが声を上げて私の手を引き止めると……。
私達のすぐ横の通路にテニスボールがポーンと跳ねた。大きくバウンドをして私達の頭上よりも高く跳ね返っていく。
私達はテニスボールの出どころの校舎を見上げると、二階廊下の窓に頬杖をついて見下ろしている加茂井くんの姿があった。
「あのさ。人の女を誘うのやめてくんない? 迷惑」
「……っ!! そこからテニスボールを投げたのはお前だな。当たったら危ないだろ」
「お前があんまりにもしつこく迫ってるから、みっともないと思って気づかせてあげただけ」
「なんだとっ!!」
「あのっ、私……。失礼します……」
私はその隙を見てそそくさと退散した。
校舎に入ってから下駄箱裏に周って一人になると、頬を赤面させたまま両拳を胸の前にギュッと結んで足をバタバタさせた。
興奮が覚め止まない上に、ドキドキした心臓が私の恋レベルを押し上げていく。
どうしよう!! 加茂井くんが『人の女誘うのやめてくんない?』だって〜〜っ!!
私を本物の彼女のように扱ってくれるなんて、嬉しい、嬉しい、嬉しいっ!!
――この時の私はまだ気づいていなかった。
彼の復讐劇が第二幕を迎えていることに。
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