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◇ ◇ ◇
迎えた県大会は、散々な出来だった。
それでも私達には、妙な自信があった。去年の先輩達をはじめ、例年県大会は突破するのが当然だったから。どんな仕上がりであろうと勝ち進むのは間違いないから、県大会から次の支部大会までのひと月の間に、どこまで立て直せるのかが勝負だと、頭から決めてかかっていた。
だからこそ、自分達が県大会すら突破できず敗退したと知った時の衝撃は、計り知れないものがあった。
「そんな……そんなのって」
部員達はその場で泣き崩れ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
「あんなに頑張ったのに」
好美と友理奈ですら抱き合って泣いているのを見て、私は心がすーっと急速に冷えていくのを感じていた。
どうして泣けるんだろう。どうして悔しがれるんだろう。
私達は、それだけの事をやって来たと言えるんだろうか。
ステージに上がる直前まで緊張感のまるでない顔つきをしていた彼女達と、今目の前で悲嘆に暮れる彼女達が、どうやっても頭の中で結びつこうとしなかった。
と――
「ねぇ、どうするつもり!」
鬼のような形相で食って掛かってきたのは、美桜だった。
「支部大会にすら進めないだなんて、信じられない! 恥ずかしくて学校帰れないじゃない! どう責任取るの? 優香、部長でしょ!」
私は信じられない想いで美桜を見返した。
そこにいるだけでいいから、と私を部長に推した美桜の言葉とは思えなかった。
「ねぇ、なんか言いなさいよ! 私何回も言ったよね? もっとちゃんとみんなに厳しく言わなきゃ駄目だって。適当にやってきた結果が、このザマでしょ! どうするのよ!」
罵倒が雨のように私の頭上に降り注ぐ。私は俯き、ぎゅっと拳を握りしめた。
その時だ。
「やめなよ」
割って入った人物を見て、私は言葉を失った。ついさっきまで泣きじゃくっていたはずの友理奈だった。
「優香は頑張ってたじゃん。優香を責めるのは違うと思う」
「はぁ? じゃあ誰が悪いって言うの? 友理奈だって何かっていうと彼氏の話ばっかりして練習なんてそっちのけだったくせに。私、本当はずっと頭に来てたんだけど、この際だから言わせてもらう。部長のくせに言うべき事も言わないで、表面上だけ仲が良いフリして。私達はみんなもっとちゃんと練習したかったのに! 優香がちゃんとやるべき事をやってこなかったから! みんなもそう思うでしょ?」
舞台上の大女優気取りで、大げさな身振りで周囲の部員達を仰ぎ見る美桜。でも自信に満ち溢れたその顔は、どんどん翳りを帯びていった。
誰一人として、美桜に同調する部員はいなかった。
ふと……袖を引かれた気がして横を見ると、いつの間にか一年生の希美がいた。
希美は震える声で、言った。
「私も優香先輩は……悪くないと思います」
周囲から雑音が消えて、沈黙に包まれる。
一人……また一人と、部員達が私の側に集まって来るのがわかった。
いつの間にか、美桜の周りにはぽっかりと不自然な空間が生まれていた。
「……ちょっと、どういうつもり? なんなのよその目は。まさか私が悪いって言うの? 意味わかんない! さんざんあんた達の愚痴も不満も聞いてやったのに! そんなんだから県大会ごときで負けるんじゃない。やってらんないわ。ふざけないで!」
わなわなと唇を震わせた美桜は、まくしたてるように吐き捨てると、足音も荒く去っていった。
私は深く息をついた。心臓がバクバクと爆発しそうに鳴っていた。自分の胸を落ち着かせるように、何度も、何度も深呼吸する。
しんと静まり返る中、部員達の目が私に集まっていた。部長として、私は彼女らに何か声を掛けなければいけなかった。
「あのね、みんな。よく聞いて欲しいんだけど……」
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