バディと呼ばせて

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成田が初めてそれを見たのは明け方の自分のアパートだった。 布団に入り眠りにつこうとしていたら窓際から気配を感じ薄目を開けて見るとベランダに月夜に照らされているそれと目が合った。 それはとても小さくらっきょうのような尖った頭をしていた。 2本足だから野良猫ではないようだが… しばらく目は合ったままだった。 逃げる様子はなかった。 見なかったことにしようかと頭をよぎったが気づけば成田は話しかけていた。 「な…なにかご用ですか?」  敬語になっていた。得体の知れないそれをなるべく刺激したくなかったのだ。 そもそも言葉は通じるのか? 「あらあら。わたくしが見える方には久々にお会いしましたよ。」 しゃ…喋った…しかも声がおっさん! 「人間とお話するのは何ヶ月ぶりですかね〜あなたはまだお若いのにわたくしが見えると言うのはなんとまぁ…残念なことのように思います。ではわたくしは急ぎますのでこのへんで。」  そう言うと小さいおっさんはニコッと笑い、月に吸い込まれるように空にスーッと消えていった。 えっと…今のはなに? 小さいおっさんがいなくなった後すぐ成田はスマホで検索をしまくった。 【小さいおっさん 消えた】 【小さいおっさん 幽霊】 【小さいおっさん 会う 不吉】 【小さいおっさん 会う 幸運】  成田は検索結果を整理することにした。おっさんの情報は意外にもたくさん出てきた。 ⚫︎おっさんは「小さいおじさん」と呼ばれ一時期TVでも話題になった ⚫︎おっさんは色々な場所に現れる ⚫︎人に悪さはしない(多分) ⚫︎妖精の類いである(多分) ⚫︎特定の大人にしか見えない(理由は書いてない) 検索していたら朝になっていた。 もしおっさんにまた会えたら気になっていることを聞いてみようと思いながら眠りについた。 ⭐︎⭐︎⭐︎  「みーちゃん、出ておいでー山田さんちのみーちゃーん!」 成田は飼い猫探しの依頼を受けて片っ端から公園という公園の茂みをかき分け依頼主の飼い猫を探していた。 成田は探偵の助手になって5年だったが、毎日の仕事はほとんど不倫現場の証拠写真や猫探しだった。 成田は自分の仕事、いや人生に生きがいは何もなかった。生活の為だけにあらゆる感情は捨て働いていた。 「あら。またお会いしましたね。」 公園で茂みをかき分けていた成田に背後から急に誰かが話かけた。 振り返るが誰もいない。 「下ですよ。下。」 言われるまま目線を下げて見るとこの前の小さいおっさんがちょこんと立っていた。 「わっ、びっくりした…ていうか昼間も行動してるんだ…あ、すいませんネットにはそんなの書いてなかったので…」 そう言うと小さいおっさんは腕組みをした。 「ふむ。またネットですか。この数年で会話をした人間からよくその単語を聞きますねぇ。ネットでわたしの話を読んだことがあるだのわたしの事を知ったふうに語られたりでとても不愉快極まりない。」 小さいおっさんは小さい体を小刻みに揺らしている。 顔も赤くなっていて興奮しているようだった。 「すいません…もうネット検索は治らない病気みたいなものでして不愉快にさせたなら謝ります…ところで…」 成田は気になっていたことを聞いてみることにした。 「この前あなたは俺のことを残念とおっしゃってましたよね。なにが残念なんでしょうか?その…すいません検索しても出てこなくて…。」 成田は小さいおっさんになるべく目を合わせるようにしゃがんで話しかけた。 「そんなこと私言いました?それは大変失礼しました。でもまぁ事実なのでしようがありませんがね。そんなことより、 わたしはずっと探し物をしていまして見つからないのです。 あなたとなら見つかるかも知れません。よかったら一緒に探してはいただけませんか?」 「えっと…答えになってませんけど。」 「どうされます?一緒に探してくれますか?」 小さいおっさんは大きい圧を俺にかけながらニコッと笑った。 ⭐︎⭐︎⭐︎ 1ヶ月が経った。 あのあとの俺はおっさんに言われるがまま西へ東へ駆け回った。 暖かい木漏れ日の中で長い昼寝から覚めた後の心地よさみたいなものが成田を包んでいた。成田は空に向かって大きく伸びをして言う。 「さてと、わたしもひとはな咲かせるとしますかねー。」 いつのまにかおっさんの口調がうつっていた。 成田にはもうおっさんは見えない。 「残念」と言われた理由、もうおっさんが見えない理由はわかっていた。 だがそれはネットには書かないことにした。知っているつもりでいても、自分の目と耳で聞いたこと体験しないとわからないことが世の中には沢山ある。 成田は今日も公園で猫を探している。 「みーちゃーん!いませんかー?」 「ミャー」 「ん?まさか…みーちゃん!」 「ミャ〜!」 そっと手を差し出すと猫のみーちゃんはストンと胸に滑り込んできた。 「やまださーん!みーちゃんいましたよー!!」 成田は晴れやかな表情で駆け出していた。
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