植物化人間

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 その奇妙な症状が最初に現れたのは一体いつで、誰だったのだろう。ある日人々の体に植物の特徴が現れ始めた。ある者は足から根が伸び、ある者は腕から茎や葉が伸びる。ある者は髪の毛から蔓が伸びて、ある者は花が咲く。  世界は混乱した。しかしどれだけ調べても原因はわからず。何より体に害があるというわけではないので、人々はこの症状を肯定的に受けとめ始めた。メリットが大きいからだ。  太陽の光を浴びて適度に水分を摂取していると、食料を食べなくても過ごせるようになった。食費が減り、食糧難が減った。食べ物の廃棄も少なくなり、食べ物を栽培していた土地はテクノロジー研究所が大量に建てられた。  人々の生活は一変した。希少価値の高い植物や、植物の能力をより効率的に取り入れた者は国から補助金が出て生活が豊かになる。夜も睡眠という概念がなくなった。活動的ではないだけで、起き続けている。仕事ができるのだ。  進化した人類。ここに新たな階級、ヒエラルキーが誕生したのである。  いかにきれいな花が咲くか、いかに植物の能力を高く取り入れているか、いかに優秀か。どうやったらより効率的に植物と一体化ができるのか、という研究がどんどん進んだ。この研究に携わる者はエリートとなっていく。  親と同じ植物が子供に現れるわけではない。どんな植物が現れるのかはまさしく神のみぞ知る状態。雑草のようなものだった場合子供は捨てられ、素晴らしい植物だった時は一気に金持ちになれる。親が子供に期待する事はどんな植物になるか、それだけだった。  そのためサボテンの特徴が現れたコノミは、その場で捨てられた。 「生きてる意味ないんじゃない? 何の特徴もないし、しかも棘だらけだし」 「近づきたくないよね、別に近づく必要もないんだけど」  差別が激化する世界。棘だらけの少女に近づく者はいない。誰も握手をしない、触れない、抱きしめることもない。  しかも成長が遅く、見た目が全く変わらない。サボテンの影響を受けているらしく、コノミは何年経ってもサボテンの特徴が出た時の、五歳の姿のままだ。サボテンは非常に成長が遅いのである。  そのせいなのか、コノミの動きも非常にゆっくりだ。走ることができず歩く速度も普通の人の倍かかる。喋るのも遅い。それがまた蔑まれる対象だ。 「そこのトゲ女、これ片付けておいてよ。どうせ暇でしょ」 「私たち写真撮影があるから忙しいの、あんたと違って」
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