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そんな言葉をずっと聞いてきた。最初は悲しかった、何もしていないのにどうして自分を悪くいう人がいるんだろうと。
そんなコノミを唯一見捨てなかったのは祖母だ。祖母に生えた植物は睡蓮。とても綺麗で近所では有名人だ。
コノミを施設に預けて大都市に引っ越して一緒に暮らそう、と。祖母の娘夫婦から説得されても、首を縦に振らなかった。
「おばあちゃん、お引越しすればお金持ちだよ」
「そうねえ。でも、コノミちゃんと離れるのは嫌ねえ」
「コノミのせいで、おばあちゃんお金持ちになれないって」
「コノミちゃんにそんなこと言うのねあの子らは、まったく。あのねコノミちゃん。あの人たちは私を使って、自分たちがお金持ちになりたいだけなのよ。おばあちゃんはね、贅沢がしたくて生きてるわけじゃないの」
「ふうん?」
コノミは祖母が引き取り、二人静かに慎ましく生活していた。そんなある日のことだ。
「コノミちゃん」
「なあに……おばあちゃん、どうしたのその格好」
コノミが十歳になった時だ。いつも頭に二つのきれいな花を咲かせていた祖母は。
全身にいくつもの睡蓮の花を咲かせていた。
その数は異常だ、花を多く咲かせる人でもせいぜい五個程度。祖母は体中に睡蓮が咲いていたのだ。咲き乱れる、美しい花。
「ごめんね、お別れなのよ」
「え、え? なんで? や、やっぱり、コノミ、いらない?」
「違うわよ、そんな悲しい事言わないで。お花がね、水に戻りたがっているの。でも人間は水の中で生きていけないでしょ? だから私の体の水分で花を咲かせているの」
日光浴も適度な水の摂取も祖母はきちんと行っていた。それではもうどうにもならなくなっているのだ。
「ご、ご飯、食べよう。お腹、いっぱいになれば。きっと」
「そうね。きっとそうなんだろうけど。おばあちゃんね、お花にはきれいに咲いてて欲しいの」
「え?」
意味がわからなかった。そして、驚いたことに祖母はコノミの頭に手を伸ばしてくる。
「あ、あぶないよ。トゲトゲだよ」
「そうね」
祖母は頭を撫でてくれた。手には棘が刺さり血が溢れてくるが、祖母は気にした様子もなく頭を撫でてくれる。
こしょこしょとした、くすぐったい感覚。本当に久しぶりだ、棘が生える前に撫でてもらって以来だ。
「やっと頭を撫でられた。おばあちゃんに勇気がなくて、ごめんね。ありがとうね」
そういうと祖母はどこかに歩いて行く。必死に追いかけたが、コノミの速度では追いつくことができなかった。
そして祖母が向かって行ったのは、透き通った水が有名な美しい池。きれいな花を咲かせる人だけが近寄ることを許されている特別な場所だ。
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