植物化人間

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 やっとたどり着いた湖の上には、大量の綺麗な水蓮の花が咲き乱れていた。祖母の姿は無い。だが、もう祖母はどこにもいないのだということがわかった。それでも、祖母を求めるように手を伸ばす。 「おいサボテン野郎、なんでここにいるんだよ! ここはお前が入っていい場所じゃないんだよ、さっさとどっか行け!」 「お、おばあちゃん、が」  喋っている途中で知らない人に石を投げられた。棘が生えているから触ることができない。そういった時人々は物を投げてくれる。  泣きながらその場を離れた。どうせあそこにはもう、祖母はいないのだから。 「どうして、手を伸ばす、っていうのかな」  泣いて泣いて、ようやく泣き止んでなんとなく思った。  伸びるという言葉は、長さが変わるということだ。例えば蔓が伸びるのは確かに伸びている。もともとの長さから変わっているのだから。  でも、腕は伸びていない。垂れ下がっているものを前に突き出したのなら、それは伸ばしたのではなく動いただけだ。  今ではもう誰も使わなくなった小さな図書館。ここはコノミが唯一安らげる場所だ。紙が穴だらけになっても誰も文句を言ってこない。  調べてみると人の体は昔から良く「伸びる」という単語を体に結びつけてきたようだ。 「あしを、のばす。一休みをしたり行きたいところに行くこと? 変なの」  別に伸びていないと思うのだが。 「くびを、ながくして、まつ。首が伸びたら、怖いよ」  待ち続けることをどうして首を伸ばすというのか。考える。 「昔の人が考えたのなら、待つのはきっと大切な人を待ってるから。昔は高い建物が無いから、遠くから歩いてくる人をよく見ようとして。それで首が長いように見えたってことかな。背伸びしたとか。あ、また、伸びてる」  人の体の部位の伸びる、とは実際の長さが変わっているというわけではないらしい。 「鼻の下を、のばす。うん、ここは、伸びてる」  鼻の下の皮膚が確かに伸びている。 「意味は。綺麗な人の前で、デレデレする。きれい……やっぱり、きれいなものの方が、いいんだなぁ」  ちょっと落ち込む。  いろいろ調べてみると、本当に何かを伸ばすという言葉を人は多く使ってきたらしい。伸びるのは身長だけだと思っていた。 「これからは、根を伸ばす、とか。茎を伸ばす、とか。新しい言葉ができるかもしれない。勉強、ちゃんとしておこう」
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