5人が本棚に入れています
本棚に追加
どれも自分にそれは当てはまらないが。だが、絶対に誰にも当てはまらないのに有名な言葉がある。
「羽を伸ばす。ゆっくり過ごすこと。人に羽なんてないのにね」
ふふ、と笑うと読んでいた本を閉じた。本、辞書など今や旧世代の産物だと誰も見向きしない。今はバイオテクノロジーが世界の正義だ。
あれから何年も経った。人々に変化が現れ始めた。日の光を浴びているのに、なんだか体がだるい。どうして体調が悪いのか誰もわからない。
人間としてのエネルギー摂取として、食べ物を食べようということになったのだが。
「食料がない、どこだよ食い物は!」
植物や家畜を育てるのをやめたのは自分たちだ。もう食べ物を食べる必要は無いと、農場も牧場もどんどん縮小された。かろうじて残っていた食料施設は金持ちだけが使える場所となり。暴動が起きて世界は荒れていく。
弱い立場の者はイライラした人たちから八つ当たりされ、どんどん「枯れて」いった。そのあまりにもひどい死に様。人間なのに茶色くなり水分が抜けてしわしわになり。人間とは思えない息絶えた姿に世界が大混乱だった。
「嫌だ、こんな惨めな死に方するなんて!」
「研究施設は一体何をやってたの、こういうときのためにたくさん施設を作ったんじゃない!」
「おい、責任者は誰だよ!」
研究施設は屈強なシェルターとなり研究員たちだけが暮らす設備となっていた。研究者たちはいずれ植物化した人間は衰退すると気づいていた。人類存続研究を最優先できる者たちだけが生き残れるように、土地を買い漁っていたのだ。
そのことに気づいた一般の者たちは大混乱となる。砂漠化が進み、食べ物もない。作り方などわかるわけない。具合が悪いのは気温が上昇したせいだ。植物も、自分たちが生き延びられる環境でなければ簡単に枯れてしまう。
思考を止めた人類は、着実に滅びへと向かっていた。
コノミは歩く、砂漠の上を。
自分はサボテンだ、乾燥も日差しも物ともしない。そして誰かと寄り添うということもしない。どうせ誰かの近くにいたらまた何かを投げつけられるに決まってる。
ずっと人と離れていたコノミは、今世界が大混乱であることを知らない。ずっと前から砂漠を一人彷徨い続けている。
全く水が必要ないわけではないので、工夫しながら生きている。考えることをやめなかったから、一生懸命考えれば思いつくものだ。
砂は優しい。棘だらけの自分を優しく包み込んでくれる。
「あ」
最初のコメントを投稿しよう!