植物化人間

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『え、あ、はい! 行きます、あなたは人類の希望なんです!』 【ここに来たら、私の頭を撫でて】 『え』  そんなことをすれば当然手には棘が刺さる。 【わたし、褒められて伸びる子だから】  最後はふふっと笑っていた。冗談なのか本気なのかはわからない。大急ぎで準備を始めるが、航空機で近づけば風圧で倒れてしまうかもしれない。かなり離れたところに着陸して徒歩で行くしかなさそうだ。人であっても植物であっても、砂漠の環境は自分たちには酷だ。だがそれを耐えなければ希望にもたどり着けない。  まるで神が試練を与えているかのような状況に、逆に研究者たちのやる気はみなぎる。 「声の感じでは女性みたいですね。女性というか、まだ子供みたいだ」 「ああ。だが、みろ。素晴らしい光景だ」  このサボテンには数多くの子株が生えていた。実際に数も増やしており、周辺には小さなサボテンが生え始めている。  自ら数を増やしている。そんな者は今までいなかった。花をつけても種子をつけた者はいないのだ。 「まずは砂漠の緑化に貢献していただける。植物の細胞から人が生まれるという、我々が最終的に目指している目標を実現できるかもしれない」  人が人を産むのではなく。植物のように、種や株などを分けて人が増えていく。それは彼らが目指した道。 「地球温暖化は止められないが。今地球に土地は広大にある。食料資源も復活の目途がたった、人類は滅びない道も今見つけた。素晴らしいことだ」 ――植物となった人は、いつか自分が望んだ場所に帰りたいのかもしれない。  祖母は、水に帰りたかったのだ。カキツバタとなり、水を求めて亡くなった夫のもとに行きたかった。 ――私はきっとここに帰りたかったんだ。多すぎる栄養と溢れる水の環境は私には毒だった。私はただ太陽に向かって手を伸ばしていればよかったんだね、おばあちゃん――  祖母の選択は悲劇ではない、きっと最高の幸せの形だった。 ――人は伸びるっていう言葉を使ってきたけど。なんだか私のためにあるみたいで嬉しいな。  もう歩き回ることはできない。だが今、(あし)を伸ばしているし、心が穏やかだから羽も伸ばしている。話しかけてきた彼らが何をしたいのか知ったことではないが、久しぶりの話し相手にちょっと嬉しかったのも事実だ。彼らの到着を、首を長くして待つとしよう。  太陽に手を伸ばしながら。
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