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黒髪に紅い瞳。
高身長かつ、モデル体型のような立ち姿。
所謂イケメンと言われるタイプな容姿だった。
「……」
「朝の…」
渚と貢は驚いており、その他の生徒と言えば、一部を除く女子生徒は目を輝かせ、男子生徒も男子生徒でひそひそと何か話し始めるのが目立った。
「じゃあ蒼崎……あそこの1番後ろの席に座ってもらえるか。あ、そういえば視力とかは大丈夫か?」
「わかりました。目は悪くないので大丈夫です」
慎に促され席の方に向かう礼斗。
途中、渚と貢の席をそれぞれ横切るも、各々の視線には目もくれずに席に着いた。
「蒼崎くん、朝比奈です。これからよろしくね」
「こちらこそよろしく」
茜と礼斗が挨拶を交わすのを見届けると、慎はうんうん、と笑顔で頷いた。
「さて、それじゃ新年度最初のホームルーム始めるぞー!」
慎は元気よく声を上げ、ホームルームを始めた。
(まさか転校生だったなんて…)
礼斗の方を見て、渚は驚いたまま固まっていた。
先程、偶然にも道路で躓いたところを助けてくれた恩人。
その時は抱き抱えられていたせいもあってか、大きく見え、かつ、とても大人な人に見えた。
自分と歳の変わらない高校生だったとは……
思いもしなかったのであった。
その渚と同様に驚きつつも、少し何か違和感を覚えていたのは、貢だった。
(蒼崎礼斗……なんだろう、どこかで聞いたことある名前だな…)
訝しげに礼斗の方を見る。が、その視線には気づいていないのか、礼斗本人は教卓の方を真剣に見つめていた。
☆☆★★☆☆
ーーーー朝のホームルームは滞りなく終わり、10分休みの時間。
ダダダダッ
「「「蒼崎くーん!!」」」
クラス内の女子生徒が多数駆け寄る。
イケメン転校生に、皆興味津々なようで、親しくなりたい、話をしたいと、蒼崎の席を女子生徒が囲んでいた。
「はぁ……やれやれ」
あっという間に群衆に囲まれると、自分も邪魔だと感じたのか、隣の席に座っていた茜は席を立った。
そのまま廊下に移動し、その異様な光景を眺めていた。
「凄い人気ですね、転校生さん」
茜の隣に1人の女子がやってくる。
水色に長い髪をなびかせながら、色白の素肌。
微笑むような表情を茜に向けたその女子は、茜の友達であり、生徒会仲間の白鳥藍。
彼女は隣のクラスの生徒ながらも、先程の女子生徒達の声や物音をを聞いて、様子を見に来てたようだった。
「本当ね。まあ、確かに高身長で少しクールっぽい感じで、ね」
「朝比奈さんはお話したの?」
「ううん、まだ。隣の席になったから、挨拶はしたけどね。休み時間に少し話してみようかなと思ったら…こんな感じ」
茜は両手をあげお手上げのような仕草をとる。その仕草に藍は、「ふふっ」と笑みを浮かべた。
「…でも、きっと朝比奈さんは藤澤先生に頼りにされてるから、隣の席にされたのでしょうね」
「うーん…そうなのかな?まあ、それはありがたいんだけど…席が休みの時間奪われるのは勘弁したいかも」
「そうだよね、お疲れ様です」
生徒会副会長であり、学級委員。
学校や地域の奉仕活動などにも積極的で、3年生になったら生徒会長は間違い無し、とまで言われている朝比奈茜。
しっかり者で頼りになるからと、教師達もよく茜のことを頼りにしてるのは、間違いなかった。
茜はふと、ある事を思い出して藍の方に頭を下げた。
「あ、そういえば、ごめんなさい。今日の生徒会活動、私出れなくて…」
朝比奈茜は少しだけモデル活動をしており、今日はその撮影日であった。
高身長でスタイルが良い茜は、学生モデルとして人気を博していた。
頭を下げる茜に藍はふと口を開いた。
「今日、撮影があるんでしたっけ?私が代わりに議題の方、まとめておきますので大丈夫ですよ」
「ごめんね、いつもありがとう、白鳥さん。今度またお土産買ってくるから!…あと、ご飯食べに行くからね」
第一学園から最寄りの第一駅に向かう途中、商店街がある。
そこの人気中華料理屋「白陽軒」は、彼女白鳥藍の両親が経営しているお店。
料金もリーズナブルながら、味は絶品であり、第一学園の生徒や先生、果ては地元住民に愛されてるお店である。
藍はそこでも手伝いながら働いており、看板娘として大人気だった。
「ううん、気にしないで。ふふ、いつでもお待ちしてます」
2人は喧騒にまみれてる教室を見つめながら、残りの時間も日常会話を楽しんだ。
☆☆★★☆☆
キーンコーンカーンコーン
やがて滞りなく授業は進み、初日ということで授業は半日で終了した。
慎はノートを閉じると、教卓に手をつき、生徒の皆を見るように立った。
「さて、それじゃ今日のホームルームはここまで。また明日元気に登校するんだぞ!それじゃ、号令」
「「起立、礼!さようなら」」
終わりの挨拶とともに、生徒達は思い思いに活動を始める。
帰宅する生徒、談笑する生徒、残って弁当を食べ始める生徒……。
そんな中、帰り支度をしていた礼斗の所に慎がやってきた。
「蒼崎、学校案内とかもし良かったらしようか?まだ慣れないだろ」
慎の提案に「ありがとうございます」と頭を下げる礼斗。
しかし、礼斗はとあることをしたいと返事をした。
「学校案内もありがたいのですが、実は部活見学したいんです。見たい部活があって……もし良ければ、それをお願い出来ますか?」
「お、そうなのか。それじゃ…先生呼んでくるか?もしくはその部活の部員入れば、そいつに案内してもらうか……」
慎の提案に礼斗は頷く。
そして、礼斗は少し目つきを鋭くさせると、帰り支度の準備をしている貢の方を向いて、慎に呟いた。
「格闘部、入りたいんです」
「お、格闘部ね。よし、わかった。おーい、早乙女!」
貢は振り向くと、慎から手招きをされる。
慎は貢の肩をぽんと叩き、礼斗の方を向いた。
「部活まで時間あるだろ?少し校舎を案内してやってくれないか。それに部活見学もしたいみたいなんだ」
「え、でも、俺、今日病院行く都合があって…」
貢は渚の足の怪我を心配して、病院まで付き添う予定だった。
大きな怪我では無いものの、1人で歩くのは少し大変だと思っていたので、荷物を持ったりと、何かしらしてあげようと考えていた。
「病院?早乙女、どこか具合悪いのか?」
「あ、いや、俺じゃなくて…なぎ……き、桐原が」
「さ、早乙女君!私、大丈夫だから気にしないで!」
貢と慎の会話を聞いていた、渚は大きく手を振り大丈夫とアピールをした。
2人の様子を見た慎は大丈夫そうだと判断し「じゃ、頼んだぞ」と、再び貢の肩をポンと叩いて、教室を出ていったのだった。
「よろしく、早乙女君」
「あ、ああ…、よろしく」
ガラガラガラ
貢は自分の荷物を持つと、そのまま礼斗を連れて案内をするために教室を出ていった。
渚に遠くから頭を下げると、渚は「行ってらっしゃい」とジェスチャーを返した。
「渚、本当に大丈夫?」
茜がふと渚に呟く。
先程の出来事の後、教室を出た渚と茜、萌恵の3人は校門の方に向かって歩き始めていた。
1人で病院行くと足を少し庇って引きづりながら歩く渚を見て、茜は心配していた。
茜の心配に対して渚は「大丈夫」と頷く。
萌恵も先程の茶化した会話と違い、今度は垢と同じくちゃんと心配していた。
「捻挫とかして無ければ良いけど、痛むの?」
「うん、歩くと少し。でも歩けるからゆっくり病院行ってくるね」
渚は手を合わせて、萌恵に懇願するように言葉を告げた。
「だからごめんね!萌恵ちゃん、部活今日は休むって鈴木先生に伝えてくれる?」
「うん、もちろん丈夫だよ!お大事にね!」
「そっか…ならいいけど。…さて、2人とも行こっか」
茜は2人の背中を押して、そのままゆっくり歩き始めた。
2人と別れ、帰り道を歩く渚。
少し足を庇うようにしながら、ゆっくり歩いてると、学校から離れた大通りの前に、1台のリムジンが停まっていた。
(凄いなあ…)と思いながら、チラ見しつつ横を歩く渚。すると…
「お疲れ様です!お嬢様!!」
「!?」
リムジンから大きな声が上がった。
リムジンの中から2人の男が出て来て、リムジンの横に立ち、ビシッと頭を下げる。
渚は声の大きさに驚き、その声の主が頭を下げる方向を向くと、金髪の女子生徒が歩いてきていた。
「あれ、篠原さん…?」
「こんにちは、桐原さん」
渚に声をかけてきた人物は、隣のクラスの生徒、篠原夏鈴だった。
日本でも有数の大金持ちで「篠原財閥」と呼ばれる。
大企業の社長を父に持ち、正しくお嬢様という人物である。
夏鈴は髪をなびかせながら、ニコッと笑い浮かべた。その後、渚の足の方に視線を向けた。
「あら、どうしたの?その足」
「あ、これ?実は朝に挫いちゃって……それで」
足をさするように触る渚。
一見、外からではそこまで大怪我にはなって無さそうだが、痛みはあるため、少し庇うようにして歩いていた。
「痛そうね…これから、病院に行くの?お大事にね」
「うん、紅野病院行くつもりなんだ。ごめんね、心配してくれてありがとうね、それじゃ……」
「待って!私の車で病院まで送るわ」
「……えっ!?」
歩き出そうとした渚を呼び止める夏鈴。
夏鈴は、渚の前に歩き出すと、先程のリムジンの方に向かって歩き出した。
「上田、下井、家に帰る前に紅野病院に寄って頂戴。桐原さん病院に送るから」
「は、お嬢様。おまかせください」
「桐原様、こちらへ」
「え、え、い、いや、あの、悪いですよ!」
渚は急なことに慌てふためき、大丈夫だとジェスチャーするが、その手を掴み夏鈴は下ろさせた。
「あなたは、私の友達の美樹と友達でしょ?なら私の友達でもある。それに、去年1度、チアリーディングの応援に手伝いに来てくれたじゃない。そのお礼だからも含んでるの。気にしないで」
「篠原さん……本当にありがとう。それじゃお言葉に甘えさせていただくね」
1年生の時、チアリーディングの部活に所属している夏鈴は運動部部活の応援などで、よく応援活動をすることがあった。
その際に人手が足りない時なかった時、共通の友人である、鈴原美樹を通して話を聞いて、助っ人にやってきたことがあった。
夏鈴はその時のお礼がしたいのだと、伝えた。
「気にしないで!それに、今日は桐原さんだけじゃなく……あ、来たわ」
「夏鈴ちゃーん、お待たせー!…あれ、桐原さん!」
夏鈴が向いた方向を見ると、大きく手を振って走ってくる人物、2人の友人である鈴原美樹がやってきていた。
美樹は2人に手を振ると、何だか嬉しそうな
笑顔を浮かべた。
「えへへ、桐原さんもいるなんて嬉しいな〜!楽しみだね!」
「美樹、勘違いしてるところ悪いけど、桐原さんはこれから病院行くの。私達と遊ぶわけじゃないんだからね」
「えっ、病院!桐原さん、体調悪いの?大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だよ!」
渚は美樹にも経緯を説明すると、3人はそのままリムジンに乗り込んだ。
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