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新しい季節、出会いの始まり
ーーーー4月
春の陽射しが外を照らし、気持ちの良いそよ風が吹いてくる季節。
新たに入学した1年生やクラス替えした小学生や中学生はともかく、クラス替えも無い、昨年と同じメンバー、入学や受験たいったイベント事高校2年生にとっては、人にもよるが、特に変わり映えのたくなるような退屈な季節でもあった。
スーーッ……
静かながらも、確かに聞こえる寝息。
時計の針は朝の7時29分を指していた。
ピピピッ ピピピッ
スマートフォンが着信を知らせる。
しかし、そばに居る人物は熟睡したままである。
ガラガラガラ
「………」
隣の家の窓が開く。
その開いた窓から、1人の人物が顔を出し、隣で熟睡している人物の方を向いていた。
その人物は自らの部屋の時計を見つめると、秒針が7時30分に近づくにつれてカウントダウンを始めた。
「…5…4…3…2…1」
時計の針が7時30分を指し示した瞬間、大きく息を吸い込み、そして…
「おーきーろーーー!!!」
「…うわ!?!?」
近所一帯、歩いていた街の人々なども一斉に振り返る。
そして、何より呼ばれた張本人はその大きな声で飛び起き、ベットから転げ落ちた。
「いってててて……驚かすなよ、渚」
頭をかきながら窓から顔を出す隣人、桐原渚の方を見ると、ぷくっと頬を膨らませていた。
「今日は2年生になって初日なんだよ?それなのに寝坊するなんて……」
「いや、ほら、どうせ渚が起こしてくれるかなあと思ってさ……」
「私は貢君のアラームじゃないんだからね!早く支度して学校行くよ!」
バン!
勢いよく窓を閉める渚。
朝からいつもの説教をくらい、苦笑いを浮かべる貢こと、早乙女貢はいそいそと身支度を始めた。
この日常は、桐原渚と早乙女貢のほぼ毎朝恒例となっており、先程の大声で驚いた街の人々はいたものの、いつもの事という風に捉えられていたのだった。
☆☆★★☆☆
無事に着替えなども済まし、玄関を出る渚。
その直後慌てた感じで着替えたのか、ボタンの掛け違いなどしながら、制服を着て、貢は玄関を飛び出してきた。
「お、お待たせ」
「じゃあ、行こっか………はぁ、貢君。こっち向いて」
「ん、なんだよ」
渚は貢の方を向くと、掛け違えてるボタンを直し始める。
まるでお母さんに着替えさせてもらってる子供のような構図となっていた。
「お、おい…流石に恥ずかしいから、良いって…!」
「動かないの!」
「は、はい…」
掃き掃除しているご近所さんや、道行く人々がその光景を見て微笑ましい表情を浮かべていた。
これもまた、ここら辺の近所では日常茶飯事な光景であった。
「これで良し…と、じゃあ行こっか」
「あ、ああ…ありがとう」
渚は笑顔で歩き出すと、貢はようやく終わったと少し胸を撫で下ろした。
渚と貢が通う学校「第一学園」
都内有数の名門…もとい、超大人気の私立高校である。
学業は並であるが、スポーツが盛んな学校であり、野球は甲子園出場の経験もある、水泳は全国大会優勝経験者も輩出している。
中でも際立って有名なのが「格闘部」。
過去に一大ムーブメントを巻き起こした時には、この第一学園がきっかけであり、当時在籍していた、ある人物はこの「格闘部」の発足のきっかけの立役者とも言える存在であった。
そして…その時代にこの第一学園は、二度と破れない記録である6連覇という、名実共に「格闘部」の頂点に上り詰めた高校であった。
貢はそんな格闘部の部員であり、渚は部員としてではなく、マネージャーとして所属していた。
☆☆★★☆☆
桜が咲き、風が吹くと散り始める季節。
たった3週間ほど会ってなかっただけなのに、凄く久しぶりかのように感じる通学路。
同じ高校の制服を着た生徒達が、皆同じ方向に向かって登校するのを見かける。
渚と貢もその中の一つ。
昨日見たTV番組や、最近ハマっているドラマやアニメ、そういった他愛もない話をしながら歩いていた。
ピタッ
2人は交差点に差し掛かり足を止める。
ここの交差点は朝は横断歩道の信号の感覚が短くて有名で、信号が2つあるの一気にを渡るには走るのを余儀無くされる程であった。
「いつもここで待たされるよなあ、遅刻しそうになる」
「もっと余裕もって起きればいいだけだよ」
「いやいや…そうは言うけど……あ、なるぜ」
貢の言葉と同時に歩行者信号が青に変わる。
2人はいつもと変わらず、少し駆け足気味で信号を渡り始めた。すると……
「きゃ!」
渚が道端の小石につまずく。貢は声の方を振り向き、渚を見た後、信号が変わろうとしてるのに気づいた
「渚!?」
「ごめん、貢君、先に行って!」
「違う、信号!早く立て!」
「え、信号…?」
渚は信号を見ると歩行者信号が赤になろうとしていた。
このままでは車とぶつかるかもしれない…渚は慌てて立ち上がろうとすると、先程躓いた際に足を挫いたことに気づき、立ち上がれずにいた。
「痛っ…思うように足が動かない…」
「!?……待ってろ、今行く!」
貢はその様子を見ると、すぐさまカバンを地べたに下ろし渚の方に駆け出す。
だが、貢が一歩踏み出したその時
ダッダッダッ ガバッ
「えっ!?」
渚の体を何者かが抱き抱え、信号を渡り切る。
そのまま、ゆっくりと渚の足が痛くないようにお尻の方から地べたに渚を下ろし、座らせた。
貢の隣に下ろされた渚。
貢は渚が無事な様子を見たあと、抱き抱えた人物を見つめた
「渚!良かった…!……あ、あの」
「す、すみません…ありがとうございます…!」
貢の言葉を遮り渚は申し訳無さそうに抱き抱えて、渡らせてくれた人物に頭を下げる。
その人物は渚達の方を振り返らず、そのまま歩き出した。そして
「…足、お大事に」
一言、それだけを残して歩き出したのだった。
(何か…見覚えあるような…)
貢は後ろ姿を見て、過去に見た事ある背中だと既視感を覚えた。
☆☆★★☆☆
ーーーー時は進み 第一学園 2年B組
「ええーーー!かっこいい!!」
昨年と変わらないクラス、メンバーの中で、黄色い歓声が上がる。
それは、渚が今朝起きたことをクラスの友達と話をしていたからであった。
「てか、渚、怪我大丈夫?」
渚の隣の席に座る友達、朝比奈茜は渚の足を見て少し心配そうに見つめる。
「うん、大丈夫。ごめんね茜、心配かけて」
「それなら良いけど…後で保健室行った方がいいよ。あ、それか…紅野さん家に見てもらうとか」
「え、大丈夫大丈夫!保健室には行くからさ!これだけで紅野さんの病院に行くのはさすがに…ね?」
「何言ってんの、怪我は怪我。大きいも小さいも無いんだから…」
2人が怪我の話を続けてると先程大きい声を上げ、そのままうっとりしていた人物…相原萌恵は目を輝かせて、渚の方を見た。
「どんな…顔だったの?その白馬の王子様…」
「は、白馬の王子様?」
萌恵の言葉に困惑する渚、そしていつものが始まった、とやれやれと言った顔をする茜。
妄想癖…もとい、萌恵の理想の出会い方に近いのか、スイッチがONになると止まらない。こうなると友達の渚も茜も手をつけられないのであった。
「だってー!そんな颯爽と駆けつけて、渚を抱き抱えて…窮地を救う…そんなの」
「アニメじゃあるまいし…でしょ」
「そう!でもそんな妄想話を渚がするわけないからさ…本当に怪我してるし、もう白馬の王子様としか思えないよ!」
「あ、あははは……白馬の王子様かわからないけど、本当に助けてもらったんだよ」
目を輝かせる萌恵と心配そうな表情の茜に対し、苦笑いながら「大丈夫だよ」と合図する渚。
「………」
そんな3人の会話を少し遠い席で聞いていた貢。
貢は自然と直ぐに助けられなかったこと、渚を助けた人物に見覚えがあること…そして何故かその人物を思い出すと、自然と握り拳に力がこもっていた。
「自分がすぐ動けなかったこと悔しいのか、早乙女」
「…なんだよ、話聞いてたのか」
早乙女の前の席に座る人物、新堂康平が後ろを振り向き貢をからかうような笑みを浮かべる。
貢はバツが悪そうな表情を浮かべると、康平は続けざまに口を開いた。
「まあ、誰もが反射的に動けるわけないさ。俺たちはレスキュー隊でもねえし」
「…そうだけどさ、情けなくてな。いざと言う時にすぐに行動移せなくて」
「好きな子だからか?」
「は?ちげーよ!」
「怒るな怒るな、隠したって無駄だぜ」
顔を真っ赤にして怒る貢。
わかりやすい態度に康平は笑いながら、貢を宥めた。
「まあ、良いじゃねえか。結果的に桐原さん、大怪我しなくて済んだし。それが一番だろ?」
「…うん、そうだな」
「病院は行ったのか?」
「いや、帰り一緒に行くつもり」
2人は会話を続けていると、時間になったのか、教室のドアが開いた。
ガラガラガラ
「お、みんな、おはよう!」
金髪の髪に端正な顔立ちで人気の教師、藤澤慎。
慎が教卓に立つと、クラスの女子生徒は歓喜の声を上げ、また男子にも人気があるためか、男子生徒からも「先生ー!」と呼ぶ声が上がる。
ちなみにだが、その歓喜の声の中には萌恵も入っている
「「起立、礼!おはようございます!」」
「おはよう。みんな、改めて今学期からもよろしくな。早速なんだが……」
慎は教室の入口のドアの方を向くと、生徒達に向かってニヤリと笑みを浮かべた。
生徒達は皆呆然と慎の方を見ており、何が始まるのかと見守っていた。
もちろん、渚や貢もその内の一人である
「今日は……なんと、転校生がうちのクラスに入ることになったんだ!さて、どうぞ!」
「「「えーーっ!?」」」
生徒一同驚きの声を上げる。
ザワザワとざわつき始める教室内の中、慎の案内でやってきた人物……その人物を見るや、渚と貢はすぐさま気がついた
「!…あ、あの時の…!!」
「え、嘘……!?」
「今日から、第一学園にお世話になります。蒼崎礼斗です。よろしくお願いします」
転校してきた男子…それは渚を抱き抱えて救出した人物、その当人であった。
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