蓮音1

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蓮音1

 中学校の校門を出たところで、僕のスマホが鳴った。 「鈴音、どうしたの? 大丈夫……なの?」  最近は殆ど登校してこない、加賀嶺鈴音(かがみねすずね)から不意の着信が来た。 「うん。もう、大丈夫、だから」  何かを諦めたような言い方に、嫌な予感しかしない。絶対大丈夫なんかじゃない。 「本当?」 「……」 「僕にできることは、何でもするからさあ」 「……」  鈴音は黙ってしまった。一体、僕に何を伝えたかったのだろうか。  分からないけど、いますぐ鈴音に会いに行かなきゃいけない気がする。スマホを耳に当てたまま、帰り道に差しかかった僕の足は自然と速まっていく。 「あたしね、死ぬことにしたんだ」  絞り出したように鈴音は答えた。何が大丈夫なんだよ。苦しそうじゃんか。 「止めないでね。やっとついた決心だから」 「そうは行かねえだろ! どこだ!? 今、どこにいる!?」  スマホで話していることも忘れて、僕は必死に居場所を尋ねた。何度声を掛けても、鈴音からは返答が返ってこない。  僕は鈴音の居る向こう側の空間に、よく耳を澄ませた。階段を上っているのだろうか。カツン、カツン、と反響する足音が聞こえてくる。本当に死のうとしているのだろうか。まるで死刑台に登っているみたいだ。 「来ないでね。絶対……」  ギイイとひどく軋んで、ドアが開く音がする。鈴音が開けたその扉の在る場所は、すぐに思い当たった。もう屋上なのか? ピューピューと吹く風の鳴る音も聞こえてくる。 「それじゃあ、ね」 「おい!」  声だけの制止も虚しく、通話は切れてしまった。 どんな結果になろうと、僕は鈴音の元に行くんだ。これを最後の会話にしないためにも。  さっきまで晴れていた空に、分厚い雲が出現している。翳りから逃げるように。いや、翳りから鈴音を逃がすために、僕は空へと駆けていく。  鈴音にできることが、僕にはもっとあっただろうか。  なあ、鈴音。開いたその扉の向こう側の景色は、鈴音の目にどんな風に映ってるの?
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