鈴音1

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鈴音1

 あたしのしてしまったことは、いじめを受けるのに値する行為だったのかもしれない。あたしが自ら背負った責任を果たすことができなかったのだから。みんなには申し訳ないことをしたと思ってる。もう、あたしに挽回の余地はない。これは逃げじゃない。償いだから。  ピアノの演奏は誰よりも自信があった。ママに勧められて稽古を始めたのは5歳の頃。あたしの演奏で、誰かが喜んでくれるのが嬉しかった。  小学校の合唱コンクールでは、毎年ピアノを担当した。クラスメイトが固まって合唱の稽古をする中で、あたしは集団の外で優雅に演奏を行う。そのことに少し優越感があった。  それで得意気にならないようにも気をつけてた。ピアノが弾けて、合唱が下手なようじゃバカにされちゃうからね。音楽の先生の指導をよく聞いて、自分でも歌を口ずさみながら鍵盤の上で指を踊らせていた。ただ上手な演奏をするだけじゃダメ。どういう演奏が合唱に一番良いのかをいつも考えてた。合唱コンの総評で、ピアノ伴奏まで褒められると、クラスメイトが一緒に喜んでお礼を言ってくれた。それが余計に嬉しかった。  中学校でも合唱コンクールがあったから、あたしは伴奏者に立候補した。2年生になったクラスでは、もう一人ピアノが上手い女の子がいた。その子も伴奏者に立候補していた。あたしもその子も譲る気はなかったから、クラスの伴奏者は、恨みっこなしのじゃんけんで決まることになった。ピアノ椅子に座れたのは、あたしだった。  その子は不満そうだった。だから、その子の分も必死に練習して、最高の演奏をしようと決めた。毎日、勉強とピアノの稽古だけをする日々が続いた。これなら、その子も認めてくれると思った。  コンクールの前日、あたしは自転車に乗っていた。止まろうとしたとき、ブレーキが利かずに転んでしまった。手は出血した上に捻ってしまい、思うように動かない。伴奏は辞退するしかなかった。  あたしの失態は、責められるべきものだったんだ。みんなから非難を浴びて当然だ。あたしは、それだけのことをしたんだから。
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