蓮音3

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蓮音3

 鈴音がいる5階建ての屋上まで一気に駆け上がった。僕が運動部だったら、もっと軽々と登っていけただろうに。  ふらつく自分の身体をよそに、僕は階段室の扉を勢いよく開け放して、屋上に転がり込んだ。 「鈴音! 鈴音!」  辺り一帯に呼び掛ける。鈴音の姿がない。 「ここだよ」  頭上で声がした。階段室の上に鈴音が立っている。風に(そよ)ぐ髪とスカートが、何かを急き立てるように鈴音を煽っている。 「良かった。間に合わないかと思った」 「来ないでって言ったのに」  鈴音は冷徹な目でそう零す。僅かに涙ぐんでいるようにも見える。表情と声色がその嘘をつき通せていない。 「そっちに行ってもいいか?」 「止めないでって言ってるでしょ?」 「止めるなんて言ってないよ。隣で話したいだけ」  僕はゆっくりと、塔屋の壁に刺さっている梯子のようなものに手をかけた。鈴音はそれ以上、拒むことをしなかった。  塔屋の上は柵なんてなくて、階段室はただの突き出た背の高い立方体だった。足を踏み外せば転落する危険性が、高さの恐怖感を割り増ししている。  鈴音と同じ土台に立った。本気で死のうとしているようには見えない。 「死にたくないんでしょ?」 「死にたいよ」 「でも死にたくないんでしょ?」 「死にたいよ。止めないでって言ってるじゃん」 「じゃあ、どうして僕に死ぬことを伝えたの? どうして僕が来るまで待っていてくれたの?」  鈴音は苦しく、悲しく、歯を噛み締めて涙を流している。僕らの上空を薄暗い雲が覆っている。  僕が鈴音の苦しみを汲み取って、心の雨が降る中に手を差し伸べてあげられたら良かった。鈴音がここから飛び降りると言うのなら、僕は身を挺して落下傘(パラシュート)になってやりたい。けど、僕はどんな傘にもなれない。僕が今できるのは、雨の当たらない屋内に、鈴音を移動させることだ。  今にも叩きつける夕立が降りそうだというのに、鈴音は僕に守らせてくれない。  どうして。どうして苦しい癖に、独りで抱え込むんだよ。
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