鈴音3

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

鈴音3

 死にたい。だけど飛べない。死にたくない。だけど戻れない。  やっぱりそうだ。蓮音に助けてほしいと思った。でも助けてくれても救われない。だから、蓮音の助けを拒み続けてきたのに。ずっと遠ざけてきたのに、最期に泣き言を言ってしまうなんて。自分が悔しくて(たま)らない。  あたしをここから突き落として、なんて頼めるわけがない。  蓮音があたしを助けてくれたとみんなに知れたら、蓮音までどんな目に遭うか分からない。 「ねえ、なんで僕の前でも大丈夫なフリをするのさ。ずっと一緒だったのに、苦しくなったら独りにならないでよ。僕を避けないで頼ってよ」 「(いや)なの! あたしのせいで誰かが傷つくの。いじめの仲裁に入った蓮音が蹴られてて、あたし辛かった。蓮音まで傷つくなんて耐えられない」 「僕は大丈夫だから」 「あたしが厭なの! あたしが耐えられないの!」  あたしは後ずさる。今なら、このまま落ちれる気がする。 「逃げんなよ!!!」  蓮音の叫びに足が止まる。叫び声に空が刺激されて、急激な豪雨が降り始めた。 「ピアノの伴奏だとか、守られて辛いとか、一人で抱え込むんならちゃんと闘えよ! 闘い抜いて、やり切ってみせろよ。本当は投げ出したくなんかないんだろ?」 「だから、あたしには無理な——」 「それができないなら頼れ! 辛いって言え! 覚悟キメろよ!」  雨音を切り裂いて、蓮音が全力で訴えかけてくる。あたしだって全力でやってるよ。 「こっちも辛いんだよ! 辛そうにしてる鈴音を見てるのが。なのに頼ってくれない。助けさせてくれない。守りたいのに守れない自分の無力さが滲んでくる。僕だってもう厭なんだ!」  (かす)れて聞こえる蓮音の声があたしに突き刺さる。雨で分からないけれど、蓮音は泣いているのかもしれない。  傷つけたくない。そんなあたしの思いが、蓮音を傷つけていたなんて……。 「なあ、覚えてるか?」  蓮音は少し落ち着いて、雨音にも負けずにあたしに語りかける。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加