蓮音4

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

蓮音4

「僕が小3の時の夢で、空を飛びたいって答えたこと。飛行機とかじゃなくて、ハンググライダーみたいにさ。合唱曲歌うたびに、ほんとに翼が欲しいって言ってたこと。それをクラスの奴等にバカにされたのを、鈴音は庇ってくれた。それで鈴音も一緒になってバカにされて、僕、初めて「やめろよ!」って言い返せたんだ」  なぜか僕は笑っていた。あの時、鈴音が僕を守ってくれたことが嬉しかった。だから、もし鈴音にも辛いことがあったなら、今度は僕が鈴音を守るんだって決めていた。そう決めたんだ。 「なあ、怖気づいてないでさあ、飛び出してみようよ」  鈴音は少しだけ顔を上げた。いつもは整っていた髪は、雨という悲壮感にまみれている。 「その時にさあ、鈴音はみんなを笑顔にするピアニストになるって話してたじゃん。ここでその夢を終わらせちゃうの? 頑張って夢を叶えてみせようって、お互い誓い合ったじゃん!」  僕の夢を守ってくれた鈴音が夢を(つい)えさせるなんて嫌だ。鈴音の夢は僕が守るんだ。  鈴音は何も言わない。何があろうと、鈴音が元に戻るまで、僕は説得を諦めない。もう、鈴音の意思なんて関係ないとすら思えるようになってきた。 「恩着せがましいとでも思ってる? 偽善だとか、鬱陶しいとか思ってる? それでも僕は曲げないよ」  鈴音が生きていてくれるなら、もう形振(なりふ)り構わない。僕の意思を突き通させてもらう。 「みんなを笑顔にするって言った将来のピアニストが、こんなところで悲しまないでよ。辛い時は僕が力になるから。僕を頼っていいから。僕に守らせてよ!」  生きていてほしい。こんなところで死なせない。その一身で僕は訴え続ける。 「鈴音、逃げないで! 誓った夢を貫いてよ!」  全力で走って、必死に階段を駆け上がって、大雨に打たれて、大声を振り絞って。もう、身体も心もぐちゃぐちゃになってきてる。  僕の必死な言葉に、鈴音は何を思っているのだろうか。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加