0人が本棚に入れています
本棚に追加
蓮音1
中学校の校門を出たところで、僕のスマホが鳴った。
「鈴音、どうしたの? 大丈夫なの?」
最近は殆ど登校してこない、加賀嶺鈴音から不意の着信が来た。
「うん。もう、大丈夫、だから」
何かを諦めたような言い方に、嫌な予感しかしない。絶対大丈夫なんかじゃない。
「本当?」
「……」
「僕にできることは、何でもするからさあ」
「……」
鈴音は黙ってしまった。一体、僕に何を伝えたかったのだろうか。
分からないけど、今すぐ鈴音に会いに行かなきゃいけない気がする。スマホを耳に当てたまま、帰り道を行く僕の足は自然と速まっていく。
「あたしね、死ぬことにしたんだ」
絞り出したように鈴音は答えた。全然大丈夫じゃない。苦しそうじゃんか。
「止めないでね。やっとついた決心だから」
「そうは行かねえだろ! どこだ!? 今、どこにいる!?」
スマホで話していることも忘れて、僕は必死に居場所を尋ねた。何度声を掛けても、鈴音から答えは返ってこない。
僕は鈴音の居る向こう側の空間に、よく耳を澄ませた。階段を上っているのだろうか。カツン、カツン、と反響する足音が聞こえてくる。まるで死刑台に登っているみたいだ。
「来ないでね。絶対……」
ギイイとひどく軋んで、扉が開く音がする。その扉の在る場所は、すぐに思い当たった。もう屋上なのか? ピューピューと吹く風の鳴る音も聞こえてくる。
「それじゃあ、ね」
「おい!」
声だけの制止も虚しく、通話は切れてしまった。
何と言われようと、僕は鈴音の元に行くんだ。これを最後の会話にしないためにも。
さっきまで晴れていた空に、分厚い雲が出現している。翳りから逃げるように。いや、翳りから鈴音を逃がすために、僕は空へと駆けていく。
鈴音にできることが、僕にはもっとあっただろうか。
なあ、鈴音。開いたその扉の向こう側の景色は、鈴音の目にどんな風に映ってるの?
最初のコメントを投稿しよう!