手を伸ばしたら、それに触れた

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――お前が言ったんだ。  苛立ちのままに、高志は何度も腰をぶつけるように激しい抽挿を繰り返していた。 ――お前が言ったんだ、こうしたいと。俺とやるためなら友達をやめてもいいとお前が言った。俺の気持ちを無視して、こんなことのために。気持ちの伴わないこんなセックスのために。  Tシャツを着たままの背中をこちらに向け、茂が苦しそうに呼吸を速めているのが分かる。けれど、それでも無抵抗なその様子は、高志の征服欲を一層かき立てるだけだった。 ――もっと強く。もっと俺の思うがままに。  逃げられないように、その細い腰をぐっと掴んで、高志はより深く中をえぐる。茂が堪え切れないように短く息を吐いて身を捩った。  顔は見えない。いつでも、こちらに背を向ける茂は顔を見せない。  あの頃の茂は、決して向かい合って抱き合おうとはしなかった。 ……夢。  目を開けると、薄暗い自室の天井が見えた。遮光カーテンの隙間から差し込む光で朝だと分かる。 ……いや、違う。  それは夢ではなく、単に記憶の反芻だった。眠りから覚める時、脈絡もなく生々しくよみがえる過去の記憶。大抵は思い出したくない類の。  高志はもう一度目を閉じ、寝返りを打って横向きになった。時計は見ていないけれど、きっと起床時間にはまだ早いはずだ。できればもう一度寝たい。眠りに落ちて、この嫌な気分から解放されたい。けれど眠気はきれいに消えてしまっていた。  最近、何故かあの時のことをよく思い出す。  自分が何の気遣いもせず、むしろ悪意の片鱗すら持ちながら茂を乱暴に抱いた時のこと。  茂とは一度音信不通になったあと、社会人になってから再会し、付き合うようになった。二か月くらい前のことだ。それから何度か体を重ねているが、茂の体に触れる度、高志はいつもあの夜のことを思い出した。思い出しては、ことさら丁寧に茂に触れる。そうやって大切に扱えば扱うほど、高志の中で徐々にあの日の自分に対する後悔は大きくなってきていた。  大抵は茂の望むとおりに向き合って抱き合うことが多い。茂の体を慣らしてからその脚を開かせて抱え上げる時、ふと目が合うと、茂は羞恥の混じった笑みを向けてきた。高志が茂の中で快感に浸っている時、気付けば茂は確かめるように優しくこちらを見上げてきていた。高志が身をかがめて唇を寄せると、茂は嬉しそうに高志の首に両腕を回してきた。 ――お前も女の子を抱く時、すごい優しくしてやるんだろうなって思って。 ――それで俺も、お前にそうされてみたかったから。  そう求めて高志に抱かれていたのだとしたら、あの頃の茂は――あの日の茂は、高志の振る舞いについてどう感じたのだろう。ついそう考えてしまう。今、そんな風に幸せそうに笑うのなら、あの時は。こちらに背を向けて顔を隠しながら、高志の思い遣りのなさに傷付いていたのだろうか。本当は痛くて苦しかったのだろうか。  思い返す度、我ながらどうしてあんなことができたのだろうと自己嫌悪に苛まれる。 ――だったら期待外れだったんじゃないか。  あの日、後悔と共にそう返しても、茂はただ笑って流しただけだったけれど。
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