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そのモノには自我があった。
森の深くの暗がりに、彼は突如として自分を見出した。古い巨木の筋張った枝の上に、爪を突き立ててしがみついている自分。激しい飢えを感じ、獲物を求めて大きな目をぎょろつかせ、抜け目なく暗い森を見渡している自分。やがて茂みが揺れるのを目ざとく見つけて、枝をバネのようにたわませて彼は飛んだ。茂みに飛び込み、鋭い爪を持つ細長い指でウサギを捕える。そしてまた近くの木に駆け上り、気配を潜めた。
木の上で、彼は生きたままのウサギに食らいつき、血と内臓を滴らせながら腹を満たした。食いながら、彼は奇妙な戸惑いを感じていた。俺ハ何ダ。俺ハナゼ、俺ガ俺ダト感ジテイルンダ。
その瞬間までも、彼は生き、狩りをし、食ってきたはずだが、その記憶は茫としていた。暗い森を彷徨いながら、彼はそれまで思いつきもしなかった疑問……自分は何者なのかという疑問を、ずっと抱え続けていた。疑問はまるで飢えのように気に障った。
キイキイと甲高い声をあげて、自分とよく似た手の長い生き物たちが、枝から枝へと移動していった。猿だ。仲間かもしれないと考えて、彼は近寄ろうとした。跳躍し、近くの枝にしがみついた彼に気づくと、猿たちは一斉に怒りの声をあげ、手足を振り回し、枝を激しく揺すってそれを威嚇した。彼は逃げ出した。
森をうろつく間にいくつかの生き物に出会ったが、そのうちのどれも、彼の同族ではないようだった。いくつかの生き物は怒り狂って彼を追い払い、いくつかの生き物は彼の腹に収まった。
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