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 猿や狸のような生き物たちは、森の中にそれぞれの居場所を持っていた。移動するにせよその範囲にとどまり、餌を取りに遠征したとしても、やがてその内側に戻る縄張りだ。目に見える境界などは何もないが生き物たちは見分ける。彼が気づかず踏み込むと、激しい反応で追い出そうとする。  彼は縄張りを持たなかった。森の中に暮らしているのに、はっきりとした居場所と呼べる場所を持たない。森にいるのに、森に属してはいないようだ。森の中で、彼の存在は異質だった。  俺ハ違ウ、と彼は思った。ナゼ俺ダケガ違ウ。  彼はそんな概念を持たなかったが、それは孤独に近い感情だったと言えるだろう。  縄張りを持たない彼は気の向くままにうろつきまわり、やがて木々がまばらな場所に出た。森の密度が低く、多くの光が差し込むので明るい。木から木の距離が遠いので、枝から枝へ移るには、かなりの勢いで跳躍しなければならなかった。  そんな森の中を近づいてくる、歌声が聞こえた。 「こーとろ、ことろ……どの子をことろ……あの子をことろ……とるならとってみろ……こーとろ、ことろ……」  高い木の上から見下ろすと、森の中にうっすらと下草の少ない道がある。その道を、見たことのない生き物が歩いていた。猿に似ているが、毛皮の代わりに奇妙な布きれを体に巻き付けている。子供なのだろう、よたよたと頼りない歩き方で、いかにも弱そうだ。そして背中に背負っているのは……赤ん坊だ。
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