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市中の詳細な地図を渡し、プラエフェットは地図上のいくつかの箇所を指し示した。行政機関の類である。
「仰せの通り、緊急の際にはすぐに対処できるよう、私が信頼する役人に絞って殿下のことは伝えてあります。自警団に私の名前を出して頂ければ仔細言わずとも彼らが動くようにしておきました」
「あんたいつの間にそんなやり取りしてたんですか」
思わず口を挟んだロスの背中を、プラエフェットが間髪入れずに思いきり叩いた。
「それよりこの放蕩息子ですが、どうか愛想つかさず殿下のその礼儀正しさを叩き込んでやってください」
痛みに耐えている甥と心配の声をかけるカエルムには構わず辞を述べると、プラエフェットは上機嫌で部屋を出て行った。
*
「どうりで領政庁で叔父を見ないわけですよ。まさかこっちにいたとはね」
羽織りを脱いで荷物を簡単に整理すると、ロスは卓の横にあった木椅子を乱暴に引いた。
「プラエフェット卿がこちらにいて助かった。依頼をしたら二つ返事で御快諾下さって。ロスが来るなら喜んで、だそうだぞ、甥御殿」
部屋奥の寝台に自分の荷を置いたカエルムは、シャツのボタンを外しながらどこか楽しそうに言う。だが叔父にそう言われても素直に喜べない。
ぶすっとしたまま、ロスは主人を睨みつけた。
「どうして、こうまで周到な準備を黙ってましたかねぇ?」
「そう怒るな」
新しい上着に袖を通すと、カエルムは卓を挟んでロスの前に座る。
「と言っても無理か……まずは反対するだろうなと思って」
「当たり前でしょうが! 一国の王子が厳重な護衛無しでよくわからない問題解決に来るとか、テハイザの脅威がある状況ですよ?!」
思わず声を荒げると、カエルムは「そこだ」と穏やかだった目を鋭くする。
「テハイザとの国境という位置と鋼。隣国の関与は容易に想像できるし、それは妹や母上も同意見だ。ただ、まだ確定的ではない」
円卓に置いた手を組み、どこを見るでもなく視線を落とした。
「ただ、この微妙な関係についてシレア城内の一部は過敏だ。テハイザの可能性を大っぴらに言うのは危うい」
「老害どもですか」
シレアが長らく平和中立を保っているにも拘らず、隣国テハイザが昨今、穏やかでない態度をちらつかせているのに過剰な憤りを見せる老中はいる。
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