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若い娘二人である。今季流行の服と髪型で、学生か働きはじめくらいの世代だろう。椅子に無造作に座ると、初めに話した方が給仕への注文すら適当に済ませ、夢中になって続ける。
「シューザリーンの雪見花茶よ。こっちでは入ってきても高いじゃない? なのにそれが安くって」
「えぇー? 混ぜ物とか入ってるんじゃないの?」
雪見花の茶は肌質や冷え症改善の効果があるため女性に人気が高い。ただしシューザリーン界隈の気候と、王都を流れるシューザリエ川の水質でないと栽培が難しく、それなりの値がついている。地方では輸送費が上乗せされるためにさらに高値になってしまう。
「それがね、紛い物じゃないみたいなのよ。しかもあたしたちでも手が届くくらいの!」
半信半疑の連れに対し、女性は机に身を乗り出した。
「すみません、その花茶ですが」
ロスが止める間もなかった。
向かいの椅子が静かに音を立て、カエルムが腰を浮かせる。
それまで献立表の影になって女性客にはカエルムの顔が見えなかったのだろう。突然声をかけられた二人が不快な顔を見せたのは一瞬で、すぐさま頬に朱がさし、目が驚きとも感動とも取れる輝きを帯びる。
「さしつかえなければ、少し詳しくお聞かせいただけませんか」
にっこりと微笑みかけられ、女性客が返事も忘れて固まったのを見て、ロスは献立表の向こうで頭を抱えた。
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