第3話 微震(二)

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 テハイザとの交易は今のところ支障なく行われている。流通経路は複数あるが、交易には当然ながら双方に理不尽な不利益が生じないよう規制もある。しかし首都シューザリーンから遠い西の地となれば、行政上、王都とは話が別になってくる。監視の目から逃れようとした時に選ぶならばこの地だろう。  カエルムは書見台から離れ、妹を安心させる意味もこめて、アウロラのそばの椅子に座り直した。 「このことは、母上には?」 「申し上げたわ。ただお母さまは今日、朝の政務を終え次第、城からお出かけでいらしたでしょう。お兄様に伝えておくようにって」  大丈夫、という言葉が表層的でしかないことくらいアウロラにはわかるはずだ。現状確認からいまできることを議論した方がよほどアウロラの気力を保たせる。 「分かった。大臣には……まだ、だろうな」 「ごめんなさい、言いづらくて」  しょぼんとする理由は分かる。城を抜け出して市井を走り回っていたと知られたら、延々と続く小言があるだろう。しかし、国や民の様子は目で見なければ解らないものだ。妹を咎めるつもりもない。カエルムは優しい眼差しを妹に向けた。 「分かった。大臣には私から伝えておくから。誰から聞いたか、大臣には伏せておく」 「本当?」 「アウロラのおかげで知れたことだから、手柄を横取りするみたいで気がひけるが」  すると、アウロラの口からふふ、と笑いが漏れた。 「そういうところがお兄様、好きだわ」  そう語る顔からは、暗い影が消えている。こうなればもう妹は大丈夫だろう。明るくなった妹の瞳に安堵を覚え、カエルムもつられて微笑んだ。
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