第4話 微震(三)

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「今回、大臣の許可なら降りているから」 「あの大臣(ジジィ)……」  余計な許可おろしやがって、とロスは無意識に悪態をつく。 「ロスが大臣に確認しないなんて意外だな。こちら方面への視察は久しぶりだったし、落ち着かなかったか」  カエルムは楽しそうに笑う。悔しいが事実であり、ぐうの音も出ない。同時に、大臣も了承済みとなると今回もまた一筋縄ではいかない厄介事だという意味でもある。カエルムと馬を並べ、ロスは少し先にある市門を一瞥した。 「この街の地理的状況と一緒に、あそこの管理下だというのも原因ですか」  これまで聞いた話や政治的事情からロスも薄々察してはいた。大勢で来るとまずい理由があるのだろう。散々文句を言ったものの、意味もなく無鉄砲な行動をとらない点には、主人に対して絶対の信頼がある。  ロスの推測通り、カエルムは首肯した。 「ここは司祭領管轄下だからな。ただ、勝手に来ているわけではない。もう力添えしてくれる担当官にも繋いである」 「担当官?」  ロスがおうむ返しに聞いたちょうどその時、市門の向こうからこちらに向かってくる人物が見えた。門に付随する駐屯所から役人が出てきて会釈をすると、役人に向かって「こら、お出迎えしなさい」と叱咤が飛ぶ。  その声を聞いて、うんざりしていたロスの気分がさらに下がった。今回の視察に随伴するに当たってロスが密かに対面を億劫に感じていた相手である。そのことをカエルムに見破られていたとは思わなかったが。  カエルムが馬の手綱を引いて門の方へ進み出す。渋々ながらロスもそれに倣うと、二人が近づいて来たのに気づいて、街の方からやって来た人物が謝罪を繰り返す役人からこちらに向き直った。 「よくいらっしゃいました殿下。長旅の後でここまでご足労感謝申し上げます。どうもすみません、いらしたのに気づかず随分と失礼を」 「申し訳ありません。殿下とは露知らずにお待たせをしてしまいました」  機嫌よく挨拶を述べる中年男性の後ろで、駐屯所の役人が至極慌てて謝罪を繰り返す。 「そう仰らないでください、プラエフェット卿。お忙しいところ諸々のお(はか)らいをお願いしましたのはこちらです。この街への移動もあって卿もお疲れでしょうに、早朝から市門までいらしていただきありがとうございます」
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