第4話 微震(三)

3/4
前へ
/38ページ
次へ
 カエルムは朗らかに両者の礼を受け、役人に気にしないよう言うと、中年男性に丁寧に頭を下げた。 「殿下にそんな頭を下げられては困ります。諸官揃ってお出迎えするべきでしょうが、単独でいらっしゃるとのことで小生だけで失礼致します。しかし可能な限りご協力はさせていただきますから」 「待てこら」  機嫌よく対応する男性を睨みつけ、ロスが口を挟んだ。 「協力しますじゃなくて、事前に分かってたなら止めろよおっさん」 「おっさんとはそんな口のきき方があるか、この馬鹿息子が!」 「誰が息子だ、っていうかあんたが俺の叔父なのは事実だろうが!」 「殿下の前でなんて態度を取るんだロス、それでも側近か! いや、すみませんねぇ殿下、礼儀のなっていない甥っ子だもんでご迷惑ばかりかけているのではと思いますが」  カエルムは二人のやり取りを面白そうに眺めていたが、話を向けられると極めてにこやかに返した。 「そんなことはありませんよプラエフェット卿。実に優秀な甥御殿で、常に私が助けられてばかりです」  そうだろう、とロスに目配せする。カエルムの場合、世辞ではない。いつも恥ずかしげもなく本心からこういうことを言うからロスの方は怒り続けられなくなるのだ。今回も然り。    一方のプラエフェット卿は、恐縮しながらも甥に対する評価に頬を緩ませ、改めて礼を述べた。  ロスの叔父であるプラエフェットはシレア国の中でも司祭長の領地を管理する高官であり、この町は行政区分で言えば司祭領の管轄下にある。この領内では司祭長の権限が働き、それは王族といえど簡単に跳ねのけられるものではない。そうした状況下で動くのであれば、王族だろうとなにかしら行政の上層部に立つ人間が背後についていた方がいい。  それに止めろと文句は言ったものの、もう王妃も大臣も行けと言っていることなら、プラエフェットがどうこうできる段階は過ぎている。  太陽が刻々と天空での位置を変えていく。市門の向こうから荷車が石畳を行く音や、郵便馬車の鼓笛が聞こえ始めた。街に朝の活気が広がり始めたらしい。 「ご面倒をおかけしますが、お話していた通りです。あまり人が多くなる前に、馬と荷を預けて身軽になりたいのですが」 「そうだ、下手に人目に触れてはいけませんね。すぐ行きましょう」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加