セレーナのドレス

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セレーナのドレス

 翌日、朝食を食べた後ウィリアム様と一緒に屋敷を出た。  どこに行くかはまだ教えてもらっていない。  ウィリアム様は住宅街を抜け、街へ行く方とは反対の道へ行くと一軒の大きな洋館へと入る。看板もたっていないしここは一体どういうところなのだろうか。   「いらっしゃいませ。ウィリアム様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」  入ってすぐに身なりの整った案内人の男性に出迎えられ奥へと通される。 「あの、ウィリアム様ここは?」 「ん? お楽しみだよ」  長い廊下を歩きながらウィリアム様にこっそり聞いたが、教えてはくれなかった。 「こちらのお部屋にご用意してあります」  開けられた部屋の中央には一着のドレスがトルソーにかけられ置かれていた。  薄いピンク色の艶やかな生地、袖と裾には上品なレースがあしらわれたハイネックのドレスだ。 「これは……」 「僕たち兄弟からセレーナへのプレゼントだよ。ドレスのデザインを決めたのは姉上だけど」 「こんな素敵なものを頂いてもよろしいのですか?」 「もちろんだよ。明日の式典はこれを着てね」 「ありがとうございます」  こんなに素敵なドレスを私のために用意してくれたなんて嬉しさで目頭が熱くなる。  同時に、私はいつも着ているこの地味なワンピースしか持っていないのに明日の式典にこの格好で行くつもりだったのかと思うと恥ずかしくなった。 「セレーナ、サイズの微調整があるみたいだから着てみて欲しいんだって」 「はい。わかりました」  ウィリアム様は一旦部屋から出ると控えていたお針子さんたちにあっという間にドレスを着せられ腰回りや胸元を締められて行く。  彼女たちは傷痕に視線も向けない。未婚の女がこんな首の詰まったドレスを着ること自体珍しいので何か訳ありということはわかっていたのだろうか。  それともウィリアム様から事前に聞いていたのかもしれない。 「ウィリアム様からだいたいのサイズは伺っておりましたが思っていた以上に華奢な体つきをしておられますね」 「あ、はい」  褒め言葉なのかどうかはわからないが、はいと返事をしておいた。それよりもウィリアム様からだいたいのサイズを聞いていたとは、私のスリーサイズをウィリアム様が把握していたということだろうか。なぜ知っているのだろう。私だって自分のスリーサイズなんて知らない。  いや、これを考えるのは止めておこう。  そんなことに頭を巡らせている間にドレスの調整ができたようだ。 「とてもお似合いですよ。ウィリアム様を呼んできますね」  そしてすぐにウィリアム様が部屋へ戻ってきた。  私をみて一瞬固まった気がしたが、すぐに顔を綻ばせ近寄ってくる。 「セレーナ、とてもよく似合ってる。綺麗だよ」 「ありがとうございます」  ストレートな褒め言葉に恥ずかしくなり目を逸らしてしまったが、ウィリアム様は私の髪をそっとすくとそのまま唇を寄せた。 (っ!!) 「明日、他の貴族の令息たちに声をかけれらてもついて行ったらだめだよ」 「は、い……」  いつもなら、声なんてかけられないですよなんて言っているかもしれないが、そんな言葉さえ出てこないほどウィリアム様の表情が、私の髪に触れた唇が色っぽかった。 「このドレス、コードウェルの屋敷に運んで置いてもらえるかな」 「かしこまりました」 「着替えたら次の場所に行くからね」  ウィリアム様はまた部屋を出て行くと、私はあっという間に着替えさせられた。 「ウィリアム様、次はどちらへ行かれるのですか?」 「それもお楽しみだよ」 「はい」  先ほどの仕立屋の洋館を出て今度は街の方へ歩き出す。  そして一軒の宝飾店へ入った。 「ドレスは僕たちが勝手に選んでしまったから、アクセサリーはセレーナの好きな物を選んで欲しくて」  入った宝飾店は貴族向けの高級店でどのアクセサリーも精巧でダイヤなどの宝石もふんだんに使われているものばかりだ。 「私、この中から選ぶなんてできません……」 「じゃあ僕が選んでもいい? あのドレスに合うネックレスがいいよね。これとかどうかな」  ウィリアム様が指差したのは一際大きなダイヤがいくつもはめ込まれたこのお店の中でも一番高そうなネックレスだった。 「や、やっぱり自分で選ばせて頂きます!」 「そうしてくれると嬉しいな」  こんな高そうなものを買ってもらう訳にはいかないし、私が身につけるのも気が引ける。  私はお店に展示されてあるアクセサリーを見ていく。  すると、一つとても目を引くものがあった。  装飾自体はとても小さいけれど細かく造られた雪の結晶を型どったイヤリング。結晶の中央には控え目にダイヤが光っていた。 「ウィリアム様、このイヤリングにしてもかまいませんか?」  ドレスはハイネックで首元まで綺麗なレースがあしらわれている。ネックレスよりイヤリングの方がいいと思った。  私が選んだイヤリングを見てウィリアム様は優しく笑う。 「うん。セレーナに良く似合うと思う」  その場でイヤリングを購入し、包んでもらったものを持って屋敷へと帰る。 「本当にありがとうございます」 「着飾ったセレーナを見るのが楽しみだよ」  そういえば、ドレスを買ってもらったは良いものの私一人ではあのドレスを着ることはできないし、髪だってそれなりに整えないといけないだろう。指先が器用である自負はあるが、自分で髪をアップスタイルにするなんてことはしたことがない。 「あの、私明日の身支度はどのようにすればよいのでしょうか」 「それなら心配しないで。人を呼んであるから」  明日の朝早くからその人が私の身支度を整えに来てくれるのだという。  自分で全てしなくてよいことに安心したが、何から何まで申し訳ない気持ちになった。
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