父と獣の兄弟

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父と獣の兄弟

 式典が終わり、兄弟たちがセレーナの元へ行こうとした時、父の補佐官に呼び止められた。今から応接間にきて欲しいと。  すぐに帰りたいと言ったが補佐官は表情ひとつ変えず 「お父様のご命令です」そう言って応接間のある方へと歩き出す。  三人は父が何か企んでいるのだろうと思いながらも拒否することは出来ずそのまま応接間へと向かった。  三人が応接間に入るとそこには何人もの貴族の令嬢が集まっていた。  「これはなんですか?」  ウィリアムは怪訝そうな顔で補佐官に尋ねる。 「コードウェル宰相よりこの中のご令嬢から結婚相手をお選びになるようにとのことです」 「はあ?!」  ライアンはあからさまに声を荒げたが、補佐官は相変わらず無表情で三人を見ると応接間を出て行ってしまった。 「ボク、あの人父上と同じくらい嫌い」  アレンは閉められた扉を眺めながらボソリと呟いた。  三人に気付いた令嬢たちは皆頬を染め目を輝かせながら近づいてくる。  あまり社交の場には姿を見せず、今回のような大きな行事でもすぐに姿を消してしまう彼らは幻の三兄弟と言われていた。  そんな三人とお近づきになれると集まった令嬢たちはここぞとばかりに三人に声をかける。 「ウィリアム様っ、ずっとお話したいと思っていました」 「ライアン様、私あなたのファンなのです」 「アレン様、年上の女は好きですか?」  三人を取り囲むように集まる令嬢たちにライアンは舌打ちをしながらかき分けるように部屋から出て行く。  そして出て行ったかと思えばまた直ぐに部屋に入ってきた。  獣の姿になって。 「グルルルル」  少し喉を鳴らすとウィリアムとアレンに群がっていた令嬢たちは獣姿のライアンに目を向ける。 「「ひっ!!」」 「け、獣よ!」 「一体どこから入ってきたの?!」  ライアンは怯えた令嬢たちを睨み付けるように近づいていくと咆哮をあげる。 「「「「きゃーーー!!!」」」」  令嬢たちは悲鳴をあげあっという間に散り散りに逃げ出していった。    令嬢がいなくなった部屋でウィリアムは大きなため息を吐く。 「ちょっとやりすじゃない?」 「追っ払うにはこれが手っ取り早いだろ」 「確かにね。兄さん、どうせなら彼女たちの前で姿を変えたら良かったんじゃない?」 「それは話がややこしくなるからだめだよ」  それから三人は部屋を出て今度こそ帰ろうとしたが、部屋の外には補佐官が立っており、今度は執務室にくるように言われた。  三人は渋々、父がいるであろう執務室へと向かう。  逆らったところで後々面倒なことになるのは全員わかっている。  だが、三人が執務室へはいっても父はディスクに座ったまま指を組みじっと三人を見るだけだ。 「父上、以前にあのようなことはもう辞めてくださいと言ったはずです」  そう、父は前にも同じように何人かの令嬢を三人にあてがおうとしたことがある。その時も獣姿のライアンを見て令嬢は逃げ去って行った。 「どうせ俺たちのあの姿を見て逃げ出す女ばっかりなんだ。余計なことすんなよ」  ライアンは苛立ちを隠せないまま父のディスクをバンッと叩く。  そんなことをされても一切表情を変えず父はライアンを見上げる。 「ならば自分で相手を連れて来い。あの家に年頃の娘を住まわせているのだろう。没落した家の娘だそうだがこの際その娘でも構わない」 「セレーナはそういう相手ではありません」 「どういう相手かなんてどうでもいい。お前たちはその血を残すことだけ考えていればいいんだ」  父がいつも言っていること。むしろそれしか言われていない。  この血を残すこと。コードウェルの血を途絶えさせてはいけない。  幼い頃からたまにしか会わない父にいつもそう言われてきた。 「ボクはいいよ。セレーナさんとなら結婚しても」 「アレン」 「お前はややこしくなることを言うな!」  とぼけたように言うアレンにウィリアムとライアンは呆れたように突っ込みを入れる。 「お前たちが決めないのならこちらからその娘に勅命として令状を出す。勅命となれば娘も拒否はできないだろう。強制的に婚姻を結ぶことだってできる」 「セレーナには手をだすな」 「それに無理やり結婚したとしても子を成すことはできまでせん」 「そんなもの黙らせて言うことを聞かせればいいんだ」 ーーガッシャーンッ 「くそ親父ィ」  ライアンはディスクを蹴り飛ばし父の胸ぐらを掴む。  ウィリアムもアレンも不快感を露にしライアンを止めることはしない。  その時、執務室のドアが勢いよく開いた。 「ちょっと! 何やってるの?!」  ノックもなく入って来たのは街でのパレードを終え、王宮に戻ってきたヴァイオレットだった。  自室に戻ろうと廊下を歩いていた時に大きな音とライアンの怒鳴り声が聞こえてきたため何事かと部屋に入って来た。 「ライアン、一旦落ち着きなさい」  ヴァイオレットは父の胸ぐらを掴んだライアンの手をそっと離すと三人を執務室の中央にあるソファーに座らせる。  ウィリアムとアレンが並んで座り、ローテーブルを挟んで向かいのソファーにヴァイオレットとライアンが座る。  父は歪んだディスクの椅子に座ったままだ。 「それで、何があったの?」  ヴァイオレットが尋ねても誰も口を開かない。 「お父様がまた無理やりお見合いでもさせようとした?」 「それだけならまだいい」  ソファーにふんぞり返りそっぽを向いたライアンが低い声で呟く。 「じゃあ何があったのよ」 「セレーナに無理やり子を産ませろだと」 「…………はあ」  ヴァイオレットは盛大にため息を吐くと父の方へ顔を向ける。 「私もセレーナさんがこの三人の誰かと結婚してくれたら嬉しいわ」 「姉上!」 「おいっ」 「でも、セレーナさんの気持ちを一番に優先するべきだわ」 「ボクもそう思う」 「無理やり結婚させて無理やり子を作ってその後どうするの? 獣の子が生まれたてとしてその子が反発すれば普通の人間はかなわないわ。お父様、血を守りたいのならまずはその関係を、存在を大切にしなければならないと思うの。もう少し時間をあげてよ」  父はそれ以上口を開くことはなかった。  しばらく沈黙が続いたが三人とヴァイオレットは立ち上がり執務室を後にした。
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