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大公家の真の姿
お父さまの書斎……と言ってもお茶スペースがあるので、そちらで私作、豆乳クッキーを摘まみながらお父さまが口を開く。
「さて、大公家のことを、遂にアリスにも話すとしよう」
「……あの、お父さま」
今から大公家の重大な秘密が明かされると言うシーンだが、気になることがひとつ。
「アッシュは一緒でいいのですか?」
こやつ相変わらず当然のようにここにいるんだが。大公家の秘密を知ってしまって大丈夫……なのか?
「あれは知ってるからな」
「うん、そうだね」
お父さまもお兄さまもすんなりと……?――――ってか、本当にアッシュって何なの!?
くるりと振り返れば。
へらへらと笑いながら、執務室の扉の横の壁をで背もたれにしながら手を振ってくるアッシュ。
本当に何者なの、あいつは……!
思えば邪神教の子飼いの狂騎士ってこと以外何も知らないわね。
「それで……うむ、アリスのクッキーが美味しいな」
「あぁ……妹ぉ……妹ぉ……美味しい……」
お父さまはいいのだけど。豆乳クッキー喜んでもらえて嬉しいのだけど、お兄さまの発言は誤解を生むだろがあぁぁぁっ!!
クッキーっていいなさいよ!クッキーって!!
「それで、あの、クッキーのことは分かりましたから!大公家の真実を教えてくださるのでしょう!?」
このままだと2人がクッキーにのめり込みそうだ。
肝心の真相がうやむやになってしまう。古今東西、うやむやになることはあれど、さすがにクッキーでうやむやは笑えないわよ!!
「アリス、我が大公家は……」
あ、でもお父さまは戻ってきた。
「帝国の影を担っている」
「は……?影……影ってあの……?皇帝陛下に忠誠を誓う直属の暗部では……!?」
この父さきほど陛下のことクソ兄上って呼びかけたんだけども。忠誠……忠誠、忠義は一体どこに。さらには。
「お父さまもお兄さまも邪神教じゃないですか!!いくら暗部だからってアリなんですか!!皇帝直属が……邪神教!!」
「ありだ。私たちはカスあにう……、皇帝陛下から暗部としてならあらゆる権限を与えられているのでな」
さすがは暗部……!やりたい放題!?邪神教ですらやりたい放題なの……!?主の皇帝陛下のこと、カス兄上って呼ぼうとしたけど!!
「いや、まぁ、それは分かりましたけど」
いや、分からんが。ここは私が納得せねば次に進まないと見た。
「分かってくれるか……!さすがはパパのアリスだ……!」
あのいろいろツッコミたいところはあるのですけど、『パパ』かい……!この父は……『パパ』呼びに何か憧れでもあったのだろうか。
「早速ボケカス兄上を暗殺し、神殿関係者を虐殺し、こと帝国を邪神教の支配下とする!!」
「はい、父上!アリスもノッてくれるとは……!いえ、我ら大公家、アリスがノッた時は遠慮なくやろうと誓いましたものね!早速、まずは帝都をものにしてくれましょう……っ!!」
「いやいや、おいおいおい、待て待て待て……!!分かってない!さすがにそこまでは分かってないけどぉっ!?……まず!!陛下の暗殺はダメ!絶対!」
『えー……』
「文句を言わない!!皇太子殿下はいいおひとでしょうが!皇太子妃殿下もいいお方だし、子宝に恵まれてますます忙しい時なのよ!?そんな時期に皇位継承なんてダメでしょうが!」
「いや、継承はしないぞ。暗殺して、直系皇家を根絶やしにするのだ!その上で邪神教トップが帝国を支配すると言う構図だ」
「ダメ!!まず!!皇太子一家根絶やしダメ、絶対!!ちびちゃんたちかわいいんだから!!子どもを犠牲にするとかやめて!!」
「……アリスがそう言うのなら」
渋々頷くお父さま。いや、私が言わなきゃやってたんかい!思えばこの父は、昔から冷血漢と恐れられてきた。だからって、実兄と甥っ子家族でしょうがっ!!
「あと、邪神教のトップって!誰よ!!」
「そうか、我らが邪神教に興味を持ってくれて嬉しいぞ、アリス!入信するか!」
いや待って、これって宗教の勧誘~~っ!?
「あの、私には聖女の印があります。なので、女神さまにお仕えする身としてそれは受け入れられません」
そう告げ、女神さまの加護を受けた聖女の印が刻まれた手の甲を差し出す。
「なんだ、しっかりと祝福されているな」
「さすがはアリス!もう邪神の祝福を受けているなんてお兄さま嬉しいよ!」
……はぁ?
そう言えばさっき、手の甲に黒いものが見えたような?
――――恐る恐る、手の甲に目を動かせば。
「あ゛――――――――っ!?」
その手の甲には、見事に邪神教の印が刻まれていた。聖女の印と見事にドッキングしてるしぃ~~~~っ!?
何これ、何よこれ。衝撃的すぎて貴族育ちらしからぬ絶叫をしてしまった。
「せ……聖女の証が汚された~~っ!?」
見事なドッキングが気になるけどおぉぉっ!!!
「あ、聖魔法は……うん、出るわね」
手のひらから放たれる聖なる魔力の光は健在である。
「でもなんでこうなってるの!?」
「どこかで邪神の祝福を受けたのだろう?」
全く分からないわよ、お父さま!
しかし最後に正常な聖女の印を見たのは……確か、アッシュの手をとった時……。
「アッシュ、あんた何か知ってたり……」
ふと振り返ったそこには……え、いない!?
「あれ、お兄さま、お父さま、アッシュはどこへ……」
「はて、仕事じゃないか?」
と、お兄さま。あんな指名手配狂騎士が!?絶対ろくな仕事じゃないわね……。
「そんなことよりアリス!」
どんなことよ、お兄さま。
「今後の邪神教の活動予定だが」
「えぇ、一応聞いておきましょうか?」
また暗殺だの何だの言い出したらたまったもんじゃないし。
「取り敢えず、アリスを裏切ったエリオットに、邪神教の総力を持って死の制裁を……!」
「総力ってうおぉぉぉぉ――――――――いっ!!いやまぁ、エリオットはクソだと思いますけど、フロリーナと合わせてぎゃふんとしてやりとうございますけどぉっ!?」
「そうか、アリス。アリスも決心してくれたか!お父さまは嬉しいぞ!よし、エリオットに死の制裁をおぉぉっ!!」
お父さまあぁぁっ!?そんなキャラでしたっけ!?でも安心してみんな……!お父さまは今も鉄壁の無表情、オジサンに見えないキレイなオジサンです!!
……いや、それよりもだ。
「待って。死の制裁はちょっと……バカエリオットのことはムカつくけど、それでもそれはダメよ。まぁエリオットと不倫相手は許せないけれど、子どもに罪はないでしょう?」
しれっと跡取りもつくりやがったエリオット。それはそれでショックではあったけれど、悪いのはエリオットたちで、子どもではないのだ。衝動に任せてそんなことをしては……きっとなにも悪くはない子どもが心の傷を負うだろう。
不倫ヤロウエリオットは……許さねぇけどな。
「あぁ、そうだな。そうだった。死ぬなどと生ぬるい」
「いやちょ、お父さま……?何かものすごい誤解があるような気がするのだけど、大丈夫かしら?」
「あぁ、アリス。愛しい妹アリス!お前の苦しみは、エリオットのヤロウの死程度では謀り知れないものだよな。かわいいアリスを不倫して捨てやがったエリオットクソヤロウには、死よりも重い、地獄を見せてやろうかあぁぁぁぁっ!!」
「よくぞ言った!息子よおぉぉぉっ!!」
いやいや、何かとんでもない思考に移行したのですけど!?
この2人の思考がやばすぎるのですけどぉぉぉっ!!!
しかしその時、この場の狂った空気を一掃するような報せが届いたのだ。
「第2皇子殿下がお越しです」
第2皇子殿下が……!大公家に……!
いや、しかし何故突然に?釈然としないながらも、第2皇子殿下が来たのならば、お父さまの甥とは言え断われまい。
お父さまも反対することはなく、第2皇子殿下が通された。
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