春の幻影

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 童女は青年に手を引かれ、隣の家前に立つ。  雲一つない空をツバメが飛んでいく。 「遠縁の子を引取りました。名前を瑠璃(るり)と言います」 「お母さんを亡くしたばかりで……。青葉(あおば)くんも若いのに大変ね。困った事があればいつでも言ってちょうだいね。瑠璃ちゃんはおいくつ?」  童女――瑠璃はずっと青年を見上げていた。向かいで微笑む女性のことはちらりと伺ったが、すぐに首を戻した。  青年の目が瑠璃に注がれる。 「七か、八つになる頃だと思います」 「それならウチのあかねが少し上ね。ねえ、あかね? こちらにいらっしゃい。瑠璃ちゃんと仲良くしてあげるのよ」  女性は玄関に向かって幾分声を張る。すると戸の内側から小さな顔が半分出てきた。 「あかねちゃん、ウチの瑠璃と仲良くしてくれたら嬉しいな?」 「青くんのお願いなら聞いてあげてもいいけど……」  青年が笑ったのを瑠璃は確かに見た。
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