春の幻影

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 翌朝、二人分の着物を川で洗濯していると、瑠璃の横に男が立った。  見上げると雰囲気が青葉に似ているように見える。 「落葉(おちば)?」 「っ、……そうだよ。はじめまして瑠璃ちゃん」  男は一瞬声を詰まらせたが、すぐににこやかに微笑む。  初めて会ったから、はじめまして、なのだろう。でも瑠璃はどうしてか、この落葉を知っている。だから名前も分かった。 「青葉、畑にいる。呼んでくるね」 「いいよ、大丈夫だよ。僕が行くから、瑠璃ちゃんは洗濯の続き、お願いね」  瑠璃は分かったと頷く。  落葉の背中を少しだけ見て、瑠璃は首を洗濯板に戻した。  洗濯した着物の水分を絞っていると、今度はあかねとひよりが現れる。  「お花つみに行きましょう」 「いろとりどりのキレイなお花がたくさん咲いてる場所があるんだよ」 「わたしたちの秘密の場所を瑠璃にも教えてあげるわ」 「ほんと!」  瑠璃はやっとあかねたちの輪の中に入らせてもらえたようでとても嬉しかった。  洗濯を干して、さあ行こう、というところで青葉が畑から帰ってくる。 「瑠璃、どこに行く?」 「青くん、こんにちは。わたしたちお花つみに行ってくるの」 「こんにちは、あかねちゃんひよりちゃん。でも、今日はごめんね。大事な日なんだ」  少女三人の肩がいっせいに落ちる。  あかねが「残念ね」とつぶやいた。 「お花行けない?」  瑠璃は嘆願するように青葉を見上げる。 「『そのつもりで』と言っただろう?」  その『そのつもりで』は兄が帰ってくるから言った言葉ではなかったのかと瑠璃はどういうことか分からなくなった。 「瑠璃は落葉に挨拶したよ」 「うん」 「お洗濯もしたよ」 「うん」 「これからあかねとひよりと遊ぶよ」 「今日は家にいるんだ。申し訳ないね」  最後の言葉はあかねたちに向かって青葉は発した。 「瑠璃ちゃん、また今度行こう?」 「そうよ、また明日でもいいわ」  右の肩にあかねの手がのる。  左の肩にひよりの手がのる。  二人の顔を交互に見て、瑠璃は眉を寄せたままこくんと頷いた。
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