春の幻影

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 家に入ると落葉が蠟燭に火をともしていた。 「母さんの遺骨は母さんの実家と分けてきたよ」  落葉は白い壺を持って座る。 「おじさんたち悲しんでたよ。七七日はあちらで読経を上げてくれるって」  落葉の前に瑠璃は座らされる。青葉は落葉の横に腰をおろした。 「良かったね、母さん」 「さあはじめよう」  異様な雰囲気に瑠璃は息を飲む。 「母さんが亡くなって、今日で四十九日だ」 「魂を彼岸に返してあげなければならないね」  青葉も落葉も瑠璃を見ている。二人の言葉は全て瑠璃に投げかけられた。 「どういう、こと?」  青葉と落葉が悲しみをたたえた顔で微笑む。 「母さん、いつまでにいるつもりだよ」 「待って、瑠璃は母さんじゃないよ。瑠璃だよ?」 「そうだよ瑠璃。でも人形の瑠璃の中に、母さんの魂が入ってしまった。だから瑠璃は人間と同じように動くことができるんだ」  瑠璃は鈍器で頭を殴られたような頭痛を感じた。両手で頭を抑える。 「違う。瑠璃は瑠璃。人形じゃないっ!」  叫んだ刹那。  脳裡に瑠璃の知らない記憶が駆け巡る。  否、それは懐かしい風景だった。
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