春の幻影

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 瑠璃の目から雫が落ちる。 「ミツちゃん……」  ミツは初めて瑠璃の声を聞いてくれた女の子だった。大切な友達で、大切な家族だった。  なのに、どうして今まで忘れていたのだろう。 「母さん、瑠璃の中から出る時間だ」 「そろそろ彼岸へ向かわなければ、あちらに行けなくなるよ」  ミツの大事な落葉と青葉。 「ミツちゃん、ありがとう。最後に瑠璃に外の世界を見せてくれてありがとう。お友達と鞠つきもできて楽しかったよ。だからもう瑠璃から出て成仏していいんだよ」  ――心残りはない?  頭に響く声は、忘れもしない親友のもの。  心残りがないかと問われて、瑠璃はあかねとひよりを思い出す。 『瑠璃ちゃん、また今度行こう?』 『そうよ、また明日でもいいわ』  それはお花つみの約束。  ミツの魂が瑠璃の身体から抜ければ、瑠璃は元の人形に戻るだろう。もう動くことも話すこともできなくなる。 「落葉、青葉」  瑠璃はミツの息子たちを真っ直ぐに見る。 「あかねちゃんと、ひよりちゃんに挨拶だけしたい」 「分かった」 「いいのか青?」 「挨拶だけだから」  渋々了解する二人に瑠璃は礼を述べた。
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