春の幻影

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 夜。  囲炉裏にかけた鍋から湯気が上がる。  ほう、と見惚れる瑠璃の前に山菜汁が置かれた。 「飯だ。食えるか?」  瑠璃は頷く。  椀を持って口をつけると酷く熱かった。  瑠璃の眉が寄る。   「腹が減っていたのか? だが急くな。火傷するぞ」  青葉が箸を持って汁椀の山菜を摘む。それに息を吹きかけるのを見て瑠璃も真似した。 「洗濯のあと、どこに行っていた?」 「ひより」  着物を干すとあかねに手を引かれて、ひよりを呼びに行ったことを思い返す。 「鞠つきしたの。あかねが百回ついて、ひよりは八十二」 「瑠璃は?」 「……いち」  瑠璃はきゅっと口を閉じた。  あかねとひよりは、一回以上続かない瑠璃を見て笑っていた。不思議な顔で「鞠つきは初めてなの? 信じられない」とあかねが目尻に涙を溜めて笑っていた。 「鞠つき初めてした」 「そうだな」 「瑠璃はどこから来たの?」  あかねに「どこから来たの?」と聞かれたことを思い出す。瑠璃はそれに答えることができなかった。きっと青葉ならその答えを与えてくれると思った。 「遠い所だよ」 「どれくらい遠い?」 「とっても遠い彼岸(かなた)」 「覚えてない」 「そうか」  青葉が汁を一気に啜る。 「食ったら寝るぞ」  青葉が箸を置いたので、瑠璃は急いで山菜を口に入れた。汁は丁度良い温度となり、瑠璃の心を温めるように身体へと流れた。  
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