春の幻影

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「青葉おはようございます」 「おはよう」 「聞きたいことがあります」  らんらんと目を輝かせる瑠璃とは反対に、青葉の目は半分しか開いてない。 「待て。顔を洗ってくる」  瑠璃は青葉の後を追う。井戸から汲んだ水で顔を洗った青葉が手ぬぐいで顔を拭うのを見上げながら「質問です」と瑠璃は口を開いた。  しかし青葉はそのまま台所へ向かう。 「青葉」 「芋を洗っておいで」 「はい!」  籠を渡されて、瑠璃は素直に受取る。芋は二つあった。  井戸の水で芋を洗いながら未だ質問できていないことに瑠璃は気付いた。  次こそ、と意気込むが青葉にはどうしてか躱される。    結局、朝餉を前にして青葉はやっと聞いてくれた。 「今日はあかねとひよりと鞠つきをしました」 「昨日だろう」 「んん? 昨日はあかねの母さまに挨拶しました」 「一昨日だろう」 「一昨日は、……あかねの母さまに挨拶しました?」 「そうだ」  んん、と瑠璃が首をひねる。 「今日は、はたきで埃を落とし、ほうきで塵芥を掃き出すぞ」 「わかりました」 「俺は畑に出る」 「いってらっしゃい」  青葉を見送る。畑は家の裏手に広がっているので南の縁側から青葉の姿が見える。  瑠璃から青葉の姿が見えるということは、青葉から瑠璃の姿も見えるということ。    青葉が畑から拳を出して小刻みに振る。  ――はたき  そう示しているのは明らかだった。  瑠璃はすぐにはたきとほうきを出して掃除を始めた。
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