歌なんて歌えない

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 父の背にしがみついているのが嫌で、幾度となく体を離そうと捕まっていた腕を伸ばしてみたが、カーブが訪れるたびにずり落ちるのではないかという恐怖に負けて、そのたびに目の前にある背中に頬を押し付けるようにして、安定を得た。  何度もそれを繰り返すうち、面倒になり私は父の背中に自分を預けた。  結局、私は一人では何もできないんだ。  じんわりあたたかい背中からも、エンジンの振動が伝わってくる。  音と振動で体がいっぱいになってもう何も考えられない。  まるで自分も爆音になったみたいだ。  どだだだだだ、だん、バイクが止まりエンジンの音が止むとあたりは静かになった。  止まったバイクから滑り降り、素早く父から身を離す。  暗闇(くらやみ)に光。光、光、光。  高台から見下ろす町は、小さいけれどそれなりの光の量を持っていて、きれいだ。
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