歌なんて歌えない

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「ねえ、お父さんってゲーノージンだったの?」  聞こえた言葉の意味を知りたくて聞いたのに、父も母も困ったような笑みを浮かべて「ずっと昔ね」としか答えてくれなかった。  あまりうれしそうではないその表情と、なんだかぎごちない空気でというのは、なのだ、と私は(さと)った。  だから私も笑ってごまかすことにした。  父と母のように。  ずっと昔。  なのに、その言葉は執拗(しつよう)にまとわりついてくる。
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