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「セイちゃん? オレオレじゃなくて、本物? セイちゃんから電話くれるなんて」 母の明るい声にホッとしました。 「それにしても、結婚考えてるなら言ってよ。いきなりだからビックリしてね〜」 「結婚?」 こっちが驚きました。彼女さえいないのに、誰のことを言っているのか。 「この前、とんぶり送ったでしょ? セイちゃん連絡もよこさんかったけど。彼女って子から丁寧なライン貰ってね。一緒に暮らしてるの?って聞いたら、そうです。結婚する予定ですって」 ゾッとして全身の毛が逆立ちました。同時に腰の辺りに違和感を覚え、触れるとボコボコ波打っていました。 血の気が引くのが分かりました。スマホが床に落下しました。 「セイちゃん? セイちゃん?……」 心配そうに呼ぶ母の声だけが響きます。 真冬なみの寒気で凍りそうです。 汗だくのTシャツを脱ぎ捨て鏡に左腰の後ろを映しました。 錯覚ではありません。腫れ物のように取り憑いていたのです。 「ふふふ。ふふ……セイちゃん」 あの笑い声がスマホの母の声に重なります。 「あ……あっああ」 悪夢と思いたい過剰な現実。ぼやけていた線はどんどん際立ち、顔の正体を克明に浮かび上がらせていきます。 「み、みさと」 元カノの名を呼びました。現れた顔は紛れもなく彼女のものだったのです。 「……いっいいーー」 腰が抜けました。四つん這いで言葉にならない悲鳴を上げながら玄関を這い進みました。 それでも追いかけてきます。 当たり前です。 ああ、引っ越しても引っ越しても離れないまさに『引っ腰』に私は取り憑かれてしまったのです。 「ふふふ、ふふ……セイちゃん。私たち、ずーっと一緒よ」                 了
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