おかしな事故物件

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「賃貸をご検討されるなら、もう少しご説明致します」  男は計悟の問いかけに、とりあえず頷くしかなかった。 「メリットから説明します」 「メ、メリット?」 「ええ。あの家は空間がねじれていますから、中でどれだけ騒いでも外に音が漏れることがありません」  これだけでも、男にとって破格なはずだ。けれども男はあの家に対して根源的な不信感というか恐ろしさを感じていた。それを表すように目がふらふらと泳いでいる。 「あなた方にとってのメリットは、あの家は平行世界を作り出せますから、何人でも詰め込めることです」 「な、何人でも?」 「私が確認したのはせいぜい30パターンほどですが、そこに10人ずつ詰め込んでも300人が入ります」  男の瞳がギラリと光る。300人を詰め込んだ場合、一人頭の賃料は月額500円で済む。計悟はあの家の使い方はやはりこれが最適なのではないかと考えた。 「次にデメリットを説明します。外から中の人間を任意に呼び出すことは不可能です。戸を叩いても新しい場所に繋がるだけですから。スマホの電波は届きますので、スマホかメールなどで呼び出してください」 「お、おう?」 「あと、開いた感じヤバそうなら一回閉じて鍵をかけてまた開いてください」 「や、ヤバい?」 「ごくたまにヤバい感じの部屋に繋がることがあります。その場合の責任を負いかねます。まあ何かあっても外から見ればただの行方不明でしょうけど」  男の顔色は再び悪くなった。 「取り置きってできるか」 「引っ越しシーズンですからね、申込書を頂かないと止められません」  計悟は窓から見える桜が散るのを眺めながら、他に申し込みなどないだろうと思いつつ人材派遣業に積極的に声を掛けるか検討を始める。  男は上に聞いてみると告げてそそくさと立ち去った。  計悟はあの家の現象は口頭で説明しきれるものではないから、来るとすれば次はおそらく少し上の立場の人間だと予想する。計悟の頭の中ではやはり業態を変えるべきではないかという思いが強くなっていた。事故物件を安く貸すとあまり儲からないし、何かあっても文句を言われるだけなのだ。それならやはり適材適所に適切な金額で貸し出すべきではないかと思案した。 「幽霊が出るタイプのはお化け屋敷とかイベント会場に貸し出すとかどうかなぁ」 「今の時代は幽霊がいても構わないんですか?」  計悟が虚空に向かって呟けば、天井から女の声で返事がある。 「多様化しているからね」  そもそもこの倉科不動産の建物自体が幽霊が出る事故物件なのである。今更の話だ。 Fin 倉科不動産は辻切区の南西にあります~。ac20083d-8f24-409b-9a1a-f282d635078c
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